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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「狂った果実」 1981

狂った果実

★★★☆☆

 

あらすじ

 昼はガソリンスタンド、夜はぼったくりの風俗店で働く青年は、昼に接客した若い女性客に街で声をかけられる。アリスのヒット曲「狂った果実」から着想を得た作品。

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感想

 仕事を掛け持ちして田舎に仕送りをする青年が、職場のガソリンスタンドで都会の裕福な若者グループの中のヒロインと出会うことで物語が始まる。同年代なのに一方はいい車に乗って遊び回り、もう一方の主人公はただひたすら働いている。このシーンだけで、生活環境の違う二組の若者の対照的な姿を鮮やかに浮かび上がらせており、見事な演出だ。

 

 だがその前にまず、当時はガソリンスタンドの店員もみな正社員だったのか、という驚きがあった。今ならバイトが多いイメージの仕事だが、もし正社員としてやっていたなら確かに生活に安定感が得られ、将来に不安を感じることなく安心して車や家を買ったり、結婚したり、子を育てたりが出来そうだ。いい時代だった。

 

 

 ただ途中で主人公はこの仕事をクビになってしまうのだが、そうなると次の正社員の仕事を見つけるのが大変そうだった。その点ではアルバイトや派遣社員の方が仕事を見つけるのは簡単かもしれない。そう考えると理想は、正社員の流動性の高い労働市場がある社会なのだろう。

 

 ところで世の仕事のほとんどが正社員だったら、学生はどこでバイトをしていたのだ?と疑問に思ってしまったが、よく考えれば学生なのだから普通に勉学に集中していたのか。家庭教師や新聞配達をする苦学生もいたのだとは思うが。

 

 裕福で満ち足り過ぎて虚無感を抱えている若い女が、苦労しながら必死に生きる若い男にちょっかいをかけるだけのよくある物語だが、主人公を演じる本間優二の不貞腐れたような、ふてぶてしい演技が良かった。だが、もう今の日本の若者には、この世の中に拗ねたような主人公の感覚は理解できないような気がしないでもない。

 

 この時代のように豊かになっていく社会であれば、取り残されたと感じてしまう人間が出てくるかもしれないが、停滞を続ける現代の日本社会でその心配はないだろう。孤独を感じても、スマホさえあれば簡単に仲間を見つられる。若者特有のコンプレックスに苛まれたとしても、自分より大きなものにすがって、その代弁者のつもりでヤフーニュースのコメント欄にでも書き込めば、すぐにたくさん「いいね」がもらえてなんだか自分がすごい人物になったかのような気分が味わえる。良くも悪くもそういう時代だ。

 

 主人公の時代は、簡単に同じ境遇の仲間を見つけたり、気軽に社会に文句を言ったり、動画やゲームなどで現実逃避する術がなかった。ただ悶々とした時間を重ねるだけだ。夜はぼったくり風俗店のボーイとして働く主人公は、そこで不公平な社会に対する鬱憤を晴らそうとしていたのかもしれない。

 

 クライマックスで、調子に乗ったヒロインの仲間たちに店を荒らされてしまった主人公は、仕返しのために店長と共に彼らのたまり場に乗り込んでいく。当然、大勢の悪そうな仲間を連れて行くものだと思っていたのに、そのままたった二人だけで現れたのは意外だった。だが彼らのその心意気には胸が熱くなった。とはいえ多勢に無勢で、あっさりと劣勢になってしまったのには、でしょうね、と苦笑するしかなかったが。それでも、社会の日の当たらない場所で生きる彼らの美学や意地が感じられた。

 

 ベタな物語ではあるのだが、鑑賞後の余韻は悪くない。

 

スタッフ/キャスト

監督 根岸吉太郎

 

出演 本間優二/蜷川有紀/永島暎子/益富信孝/花上晃/北見敏之/アパッチけん/粟津號/小畠絹子/岡田英次

 

狂った果実

狂った果実

  • 本間優二
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狂った果実 (1981年の映画) - Wikipedia

狂った果実(1981)(R15+) | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

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