★★★★☆
あらすじ
写真家として名を馳せるも酒におぼれる生活を送るようになった写真家ユージン・スミスは、ある仕事で知り合った通訳の女性に、日本に来て水俣病の写真を撮って欲しいと頼まれる。
事実を元にした作品。115分。
感想
写真家の主人公が、水俣病で苦しむ地域を訪れ、人々と交流する様子が描かれる。まずはジョニー・デップ演じる主人公のキャラクターに心惹かれる。悲惨な現場を見過ぎたせいなのか自暴自棄気味で、人を失望させるのが得意と自嘲するが、その内実は心優しく熱い男だ。
彼が水俣病患者と接する様子はそれが良く表現されている。気負うでも臆するでもなく、自然に彼らの中にいる。人類愛とか何か大きな愛の存在を信じているかのようだ。それだけにそれが裏切られるような場面に遭遇すると、人一倍心が傷ついてしまうのかもしれない。
そして内に秘めた闘争心もある。金で懐柔しようとする人たちを、内心はどうあれ、即答で拒絶するのはカッコ良かった。弱音を吐きながらも反骨心だけは失わない。
彼がやってきた水俣病の現場は、補償を訴える被害者家族と責任を認めない企業の構図の中で、政府と組んだ企業が分断工作や破壊工作を行う地獄のような世界だ。警察の嫌がらせや従業員の横柄な態度や暴力を見ていると、これは江戸時代の話?と思ってしまうような中世ぶりだ。それに対抗する被害者側の運動が激しくなるのも無理はない。
水俣は、窓を開ければオーシャンビューの、リゾート地のような美しい場所だ。それだけに、そんな場所でこんな悲劇が繰り広げられているなんてと現実の残酷さに打ちのめされてしまう。
最近でも政府による嫌がらせがあったが、現在ではさらにそんな政府を擁護し、被害者を叩く人々が現れるからますますの地獄絵図だ。しかし、そんな人たちはきっと当時もいて、ただ可視化されていなかっただけのような気もする。
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主人公や被害者たちの行動には心打たれるものがあったが、主人公の写真に対する反響や訴訟の詳細などはほとんど描かれないので、物語としては物足りない部分がある。もしかしたらそんなのは常識なので、わざわざ描くまでもないと判断したのかもしれないが。
ただ、写真を見たビル・ナイ演じる雑誌編集長のリアクションは見事だった。心を打つ写真なんだなとしっかりと伝わってくる顔芸だった。
最後は、今の政府の不誠実さを指摘して映画は終わる。政府が酷いのか、資本家が酷いのか、あるいはそのすべてが酷いのか。世界中で起きている公害とそれに伴う二次被害、三次被害に思いを馳せてしまう映画でもある。
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スタッフ/キャスト
監督/製作 アンドリュー・レヴィタス
原案 MINAMATA
製作/出演
出演 真田広之/美波/岩瀬晶子/ビル・ナイ
音楽 坂本龍一