★★★☆☆
あらすじ
第二次世界大戦前夜のイタリア。普通を求めてファシズム組織に加わった男は、大学時代の恩師の暗殺を命じられる。
原題は「Il conformista」。115分。
感想
普通を求めて、皆と同じように一般女性と結婚し、皆と同じようにファシズム組織に加わった男が主人公だ。だが意識して「普通」を求めている時点で、すでに彼は普通でないと言える。
抽象的なシーンが織り交ぜられながら進行し、難解なストーリーなのかと一瞬怯んだが、構造が明らかになってみれば案外と分かりやすいものだった。そこに至るまでの経緯を回想しつつ、殺しの現場に向かう主人公の姿が描かれていく。
殺しの任務を遂行中の主人公だが、その言動は頼りない。ターゲットには目的がバレてしまうし、揺れる心の内も見透かされている。彼自身も心が挫けて、さじを投げそうにさえなっている。本心からの行動ではなく、普通であることのアピールのためだけにやっている人間ならではの弱さが露呈してしまっている。
そして皆に合わせて真似ているだけの主人公は、いざという時には動けない。華やかに踊る大勢の人たちの真ん中で、同じように踊れずに立ちすくむ主人公の姿は象徴的だった。皆で襲い掛かる暗殺シーンにも加わることが出来ず、固まったままだった。
その後の想いを寄せていた教授夫人に対する対処も同様で、あまりにも無様な姿をさらけ出している。もし彼が「普通」なんて気にしない男だったら、思い切った行動を取ってまた違ったドラマが生まれていたはずだ。
ハードボイルな雰囲気を醸し出しながら、情けないストーリが展開される映画だ。普通でありたいと願いながらも普通になれない男の悲哀が漂っている。彼の苦悩は、ファシズムが起きれば熱狂し、それが駄目になったら無邪気に共産主義にのめり込める普通の大衆には理解できないものだろう。
そして、今のネトウヨと呼ばれる人たちの中にも、主人公のような人がいるのかもしれないなと、ふと考えてしまった。そう想像すると彼らに対する見方もちょっと変わってくる。仲間に便宜を図るのは普通、公文書の隠蔽・改竄は普通、カルト教団とズブズブなのも普通と、次々と加わる彼らの「普通」に付いて行けなくなった時、ラストの主人公のように爆発してしまう人も出てくるはずだ。元首相の暗殺はそんな風に起きたのかもしれない。
光と影を使って主人公の内面や世間の空気を暗示したりと、意図を感じる意味深な映像表現が多く、何度でも見られそうな深みのある映画だった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ベルナルド・ベルトルッチ
原作 Il conformista (Classici contemporanei)
出演 ジャン=ルイ・トランティニャン/ステファニア・サンドレッリ/ドミニク・サンダ