★★★☆☆
あらすじ
ホルモン操作と遺伝子操作、それぞれの実験によって特殊能力を持って生まれた子どもたちは、チームを組んで両者で戦いを繰り広げる。
岡田将生主演、染谷将太、松岡茉優、鈴木伸之ら出演。本多孝好の同名小説を瀬々敬久監督が映画化。126分。
感想
母体へのホルモン操作により予知能力を持って生まれた青年が主人公だ。同じように特殊能力を持つ仲間とともに政府の裏の仕事をしている。彼らの前に別の実験、遺伝子操作によって特殊能力を持って生まれた集団が現れ、両者による戦いが始まる。
序盤はそんな彼らの特殊能力を使った戦いぶりが描かれる。それぞれがどんな能力を持っているのかが説明されていくのだが、そんな中で松岡茉優演じる女が口から鉄鋲を吹いて攻撃する姿はダサくて面白かった。彼女はどうやらテッポウウオの遺伝子を持っているらしい。他のキャラに関しても詳細な説明はないが、それがかえって想像力を刺激して楽しい。
彼らには迷いのないヒーロー然としたものではなく、どこかダークで重たい空気が漂っている。主人公のアクションもキレッキレというよりはヌルヌルで、独特な雰囲気をもった映画だ。タイミングよく使われる劇伴音楽も効果的で、案外悪くない趣があった。
だが主人公らが、遺伝子操作されたチームと本格的に対立するようになると、両者の戦う理由が弱すぎるのが気になってくる。政府の意向で戦う主人公らは分かるが、相手の「自分たちのような不幸な子供を生み出した世の中に復讐をする」というのは曖昧だ。ずっと復讐のために生きてなどいられないし、それでなぜ主人公らと戦う必要があるのかもよく分からない。
彼らは副作用で若くして死ぬ運命にあり、それに対して憤っている。だがいつか死ぬのは普通の人間も一緒だ。「頼んでもないのになぜ産んだのだ?」と親に詰め寄る子供を見たときようなやるせなさがある。この物語は、自分のアイデンティティに悩む思春期の若者のメタファーにもなっている。
最終的には両者が手を取り合い、大人たちと戦う展開になる。そして仲間たちが次々と倒れていく。彼らは特殊能力を持ってはいるが、それ以外は普通なので案外と弱い。特に防御に使える能力を持っていないキャラは辛い。
松岡茉優演じるキャラもあっけなく死んでしまったが、冷静に考えると彼女は拳銃を持っている人と対して変わらない。拳銃を持っている人と同じくらいの確率で相手を倒せるし、逆に倒されもする。拳銃が内蔵か外付けなのかの違いしかないなのに、それで寿命が全然違うのは確かに割に合わないなと思ってしまった。
それから終盤に彼らの一人が「なんでこんな目に合わなければいけないのだ?」と嘆いていたが、それは君らが人を殺したりするからだよ、とツッコみたくなった。特殊能力を持っているからといって使わなければいけないことはない。普通の人と同じように普通に暮らしていれば良かっただけだ。
両者が憎み合うように仕向けられていたとか、どちらかが騙されて悪の組織に利用されていたとか、単純明快な戦う理由さえ用意してくれていたらもっと楽しめたのに、と残念な映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 瀬々敬久
脚本 喜安浩平
原作 【イラスト付合本版】ストレイヤーズ・クロニクル 全3冊 (集英社文芸単行本)
出演
染谷将太/成海璃子/松岡茉優/白石隼也/高月彩良/清水尋也/鈴木伸之/栁俊太郎/瀬戸利樹/本郷奏多/黒島結菜/豊原功補/石橋蓮司/伊原剛志/青木崇高/忍成修吾/岸井ゆきの/渡辺大/団時朗/池田政典
音楽 安川午朗
