★★★★☆
あらすじ
かつて付き合っていた女性の死を告げる電話が深夜にかかって来る表題作、映画化された「ドライブ・マイ・カー」を含む全6編収録の短編集。
感想
久しぶりに村上春樹を読んだらそのすごさを実感した。まず読みやすい。これは本当に重要で、評判が良くても難解な文章だとなかなか食指が伸びなかったりする。他の作家の本を色々読んだ後に再び戻って来るとそれがよくわかる。
それから、なんかかんだ言ってみんなが興味津々な性的な話がほぼ含まれている。そしてそれを覆い隠すかのように、魅力的な料理や音楽の話がある。それらがあまり熱量の感じられないさらりとした文体で描かれていて、読者の自己イメージを損なわせるようなことがない。大衆的な人気を誇るのも頷ける。
しかしどのような場合にあっても、知は無知に勝るというのが彼の基本的な考え方であり、生きる姿勢だった。たとえどんな激しい苦痛がもたらされるにせよ、おれはそれを知らなくてはならない。知ることによってのみ、人は強くなることができるのだから。
単行本 p32
さらっと読ませておいて、実はちゃんと読者の心象に影響を与えているのがすごいところだろう。
もちろんこの手法以外で書かれた素晴らしい小説だって山ほどあるが、多くの人に受け入れられるかといったらまた別の話だ。
この本に収められた短編は、それぞれタイトル通り「女のいない男」と言っていいような男たちが登場する。どれも教訓めいた結末を用意したり、しっかりと話にオチをつけたりしないのが良い。読み終えた後に深い余韻が残る。全部良かったが、なかでも千夜一夜物語のように女が主人公に寝物語を聞かせる「シェエラザード」が面白かった。
それから村上春樹の小説にはミュージシャンや楽曲の固有名詞がよく登場する。何を挙げるのかはセンスが問われるところだ。この本では、最近のミュージシャンとしてゴリラズとブラック・アイド・ピーズを挙げていてた。ゴリラズはなんかわかるが、ブラック・アイド・ピーズはちょっと意外だった。だがこういう部分で楽しめる所もまた魅力の一つだと言えるだろう。
著者
登場する作品
「ワーニャおじさん (岩波文庫 赤 622-2)(ヴァーニャ伯父)」
関連する作品
「ドライブ・マイ・カー」
映画化作品