★★★★☆
内容
芥川賞候補作の2作品「黄金の服」「オーバー・フェンス」に、「撃つ夏」を加えた短編集。
感想
3つの短編集だが、職業安定所や入院病棟、そして夏休み中と、どの作品も一般的な社会生活を送る人々とは隔絶した場所を舞台に、一時的にモラトリアムな日々を送る主人公の姿が描かれる。そしてどの主人公も皆、20代半ばに差し掛かった年頃の若者という点も共通している。
彼らが、何かにつけて「もう大人なのだから」と意識し、それに基づいた言動をしているのが印象的だが、それは逆に、「もう子供じゃない」と必死に自分に言い聞かせているようにも見える。20代半ばといえばそんな年頃だ。間違いなく子供ではないが、かといって大人にもなり切れないという、どこか落ち着かない気分を抱えている。そんな必死に大人であろうとする若者たちが、一時的に訪れたモラトリアム期間に立ち止まり、自らを見つめ直している。
若い男女らが共にひと夏を過ごす様子を描き、だけどやがてはそんな彼らの輝かしい時代も終わりを迎える時が訪れるのだと、切ない気分にさせられる表題作は深い余韻を残す。だがそれ以外の短編も甲乙つけがたい良い作品だった。登場人物たちの群れない、良い意味で自分勝手な姿には好感が持てた。
それから映画「オーバー・フェンス」で蒼井優演じる女が沐浴していたシーンは、原作小説からではなく「黄金の服」のエピソードから来ているのかと気づいたりして、映画と比べながら読むのも面白かった。
著者
佐藤泰志
登場する作品
「わが名はカルメン(カルメンという名の女<ヘア解禁版> [Blu-ray])」
「日曜日には溌溂と(日曜日が待ち遠しい(1985年作品))」
関連する作品
本書所収の「オーバー・フェンス」の映画化作品