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「太陽の季節」 1956

太陽の季節

★★★☆☆

 

内容

 芥川賞受賞の表題作を含む短編集。

 

感想

  表題作は裕福な家庭に育った若者たちの青春が描かれる。ただし健全な青春ではなく、喧嘩や博奕に女など、道徳観の欠如した青春だ。彼らに感じるのは満たされているが故の生への渇望だ。そこに若者特有の苛立ちや鬱憤のエネルギーが乗っかっている。

 

 満たされていない若者であれば、そのエネルギーは何かを手に入れようとする力として使われるのだろうが、満たされている彼等にとって喧嘩、博奕、女を通してその結果、何かを得ようとするのではなく、その行為自体が目的となっている。結果はどうなろうと構わない。そしていつの間にか、仲間内でそれを競っている。

 

 彼等の示す友情はいかなる場合にも自分の犠牲を伴うことはなかった。その下には必ず、きっちり計算された貸借対照表がある筈だ。何時までたっても赤字の欄しか埋まらぬ仲間はやがては捨てられて行く。彼等は日常、これを大きく狂わす恐れのある大それた取引きはしようとしなかった。

p36

 

 もはやこのような関係は仲間というよりも、ただの犯罪者集団といった方がいいのかもしれない。ただそれが彼らなりの青春だった。

 

 そんな仲間と共に日々を過ごす主人公は、いつものように町で見つけた女にいつもにはない恋愛感情のようなものを抱く。ただ今までそのような感情を邪険に扱っていたためにどうしていいのか分からない。そして、その女もそれは同じだった。互いに素直になったりなれなかったりと、気持ちは一つになれずにすれ違う。

 

 

 結局主人公は自身の恋愛感情を受け入れることが出来ず、恐れて逃げているだけだった。敢えて偽悪的に振る舞い、兄に彼女を売る真似までする。その二人の結末は、意外な展開となる。驚き、あっけに取られてしまった。ただ、もう取り返しのつかない所まできて初めて自分の過ちに気づき後悔する、というのはありがちかもしれない。

 

 続く短編は、同じような若者たちの姿が描かれる。なんとなくニュースで見た記憶のある、自宅の高級マンションで集団暴行事件を起こした医大生たちの事を思いだしてしまった。満たされ、前途洋々な若者たちの非逆な行いだ。

 

 全編こんな感じの小説ばかりかと思ったら、最後の2編は少し毛並みが違っていた。中でも「ファンキー・ジャンプ」は、ジャズライブ中の様子を描く短編なのだが、訳が分からない感じがありながら、だけどちゃんと物語になっていて奇妙な感じだった。

 

著者

石原慎太郎

 

太陽の季節 - Wikipedia

 

 

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