★★★★☆
あらすじ
誰も傷つけることのない紳士的な強盗を繰り返す老齢の男と、それを追う刑事。実話を基にした映画。原題は「The Old Man & the Gun」。93分。
ロバート・レッドフォードの俳優引退作。*2019年公開の出演作「アベンジャーズ/エンドゲーム」はこの映画以前の撮影。
感想
紳士的な振る舞いで次々と強盗を繰り返す老齢の男が主人公だ。1979年頃の実話がもとになっているが、まだこの頃は普通に銀行強盗があって、しかも主人公はそれを90回以上も成功させていたなんて驚いてしまう。彼の場合は、穏やかで紳士的な手口のおかげでセンセーショナルなニュースにならなかったのが良かったのだろう。あまり注目を集めることがなく、それぞれの事件が関連していることにすらなかなか気づかれなかった。
そんな主人公と警察の息詰まる対決が描かれるのかと思っていたが、どうも様相が違う。どちらかと言うとこれは主人公の生き様を見せる物語だということが段々と分かってくる。年老いても愉快に生きようとする主人公と、それを追う中年刑事の沈んだ雰囲気が対照的に描かれる。刑事は主人公の足取りを追ううちに彼の人生に魅了されていく。
これは、人生、特に人生の後半戦について、どう生きるのかを考えさせる物語だ。若い時はただ若いというだけで何だって良いような気になれるのだが、もはや若いとは言えない年齢になったとき、ふと自分の人生はこれでいいのかと不安がもたげてくる。いわゆる「中年の危機」というやつだ。しかも、この若くはない時期というのは結構長い。ここをどう生きるかで、人生の満足度は大きく変わってくるはずだ。
そんな人生100年時代の大問題に、主人公が一つの答えを示してくれる。子どもの頃の自分が憧れるような存在でいろと言う彼の言葉は身に沁みる。これは中年の危機を迎えてから心がけることではなく、その前からずっと心に持っていないといけない事だろう。それが出来れば、たとえ70代、80代と年齢を重ねたとしても、前向きに生きていけそうな気がする。
この映画のモデルとなった人物は、強盗事件よりも何度も脱獄をくり返したことで有名なようだが、それは終わり際にサラッと触れるだけ、というのがまたいい。まるで主人公の生き様を示しているかのようだ。そんな過去の話より今どうするかだよ、と言う彼の爽やかな声が聞こえてくるような気がした。
これがロバート・レッドフォードの最後の映画となる。最後の作品として3時間半を超える総決算的な大作でも、重厚なメッセージが込められた感動作でもなく、こんなわずか90分強の軽やかな物語を選ぶなんて、ロバート・レッドフォードはなんて粋なのだと惚れ惚れとしてしまった。颯爽としたカッコ良すぎる去り際だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 デヴィッド・ロウリー
製作/出演
出演 ケイシー・アフレック/ダニー・グローヴァー/ティカ・サンプター/トム・ウェイツ/シシー・スペイセク/エリザベス・モス/イザイア・ウィットロック・Jr/キース・キャラダイン/ジョン・デヴィッド・ワシントン/ジーン・ジョーンズ