★★★☆☆
あらすじ
大御所・徳川家斉の相談役としての立場を利用し、自身のひ孫を将軍世継ぎにすることを企む中野清茂と、それに阻止しようとする勢力との争いに巻き込まれてしまった下町の武術の師匠。118分。
感想
序盤は物語の背景となる将軍と大御所の関係や、大奥の様子などが説明を交えつつ描かれていく。主演の市川雷蔵に対して、名前は知っているがどんな顔かはパッと思い浮かばない程度の認識しかなかったので、最初はどのキャラが主人公なのだ?とキョロキョロしてしまった。
だが市川雷蔵が登場するとすぐに、この人だ!と分かった。一目瞭然の男前で、一人だけ明らかな主役顔をしている。今だとなかなかこんなに分かりやすい構図はないが、主人公が美男子なのは勿論だとして、他に男前をキャスティングしていないのも大きいような気がした。際立ち方が尋常じゃない。
主人公が登場するまでにだいぶ時間がかかったが、全体的にもとてもゆったりとしたペースで物語が進む。内容も、相手が大御所や大奥などと強大ではあるが、勧善懲悪のオーソドックスな時代劇の豪華版といったところだ。悪者をヒーローである主人公が懲らしめる。
そういう設定なので、当然のように主人公が強いのは納得できる。なんと言っても男前だ。予期せぬ展開が訪れても動じることなく、機転を利かして難を逃れる主人公の余裕綽々ぶりは痛快だった。こっそり敵の本拠地に乗り込んだのに、思わぬものを発見してつい大きな声が出てしまい、敵方にしっかりとバレてしまうお茶目な部分もある。
敵となる中野石翁はしたたかさと冷酷さを併せ持っていて、いい悪役ぶりを見せている。ただ異常に勘がいいのが気になった。普通なら見過ごしてしまいそうな事でも絶対に逃さない。それぐらいの男だから幕府を牛耳ることが出来たのかもしれないが、凄すぎて逆に笑ってしまいそうになった。
主人公が敵の狙いに気付き、いい感じに盛り上がりつつクライマックスへと突入していく。主人公が敵の屋敷内で一人で奮戦し、さてどうなっていくのかと息を呑んで見守っていたのに、すごいフェードアウトぶりにビックリしてしまった。どうやら続編を作るつもりでいたらしい。考えてみれば、大奥に送り込んだ密偵の女の話なども全てやりっ放しのままで終わってしまっている。最後に脱力させられてしまう映画だった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 衣笠貞之助
脚本 犬塚稔
出演 市川雷蔵/山本富士子/滝沢修/木暮実千代/須賀不二夫
登場する人物
中野石翁(中野清茂)/お美代の方(専行院)/水野美濃守(水野忠篤)/徳川家斉/脇坂淡路守(脇坂安董)/徳川家慶/水野越前守(水野忠邦)