★★★★☆
あらすじ
母親の死をきっかけに音楽界から消えていた元天才少女のピアニストは、数年ぶりに復帰し、世間から注目を集めるコンクールに参加する。
感想
消えていた元天才少女がコンクールに参加し、他の個性豊かなピアニストたちとしのぎを削る群像劇だ。予選を通じてメインの4人のピアニストたちが、焦ることなくじっくりと、タイミングよく紹介されていく。主人公が元天才少女で、他に秀才、天才、アウトサイダーと、分かりやすくキャラが配置されている。
期間中、ピアニストたちが足を引っ張り合うのではなく、励まし合い助け合う関係になっているのがとても印象的だ。直接戦うわけではないのでいがみ合う必要はないし、結局、孤独な音楽家の気持ちを分かり合えるのは同じ立場にいる人間しかいないからなのだろう。
それにこのレベルにもなれば、相手のミスで勝ったところで意味はないと知っている。これまでフィギュアスケートやⅩスポーツなど、コンテスト形式のプレーヤーたちが妙に仲が良さそうなのを不思議に思っていたが、その理由が分かったような気がした。
主人公は様々なバックボーンのある彼らとの交流を通して、かつての感触を取り戻していく。そして彼女もまた彼らに力を与えている。コンクールではあるが誰も勝ち負けを意識しておらず、ただ最高の演奏をすることだけに集中していることが伝わって来て清々しさがある。彼らを演じる役者陣が素晴らしく、皆魅力的なキャラとなっている。
また彼らだけでなく、審査員やスタッフなど、コンクールに関わる人たちのドラマも描かれる。さらなる至高を求め続ける者、自分が天才でないことに薄々気付いている者、そんな音楽家たちの人生を見守り続けた者などが、音楽への複雑な感情を垣間見せながら、新しい才能たちを見つめている。
野生の馬のような崇高さを湛えた若き芸術家たちの競演だ。爽やかな余韻に浸れる。コンクールの結果なんてどうでもいいとすら思ってしまうが、それでもラストでテロップによって発表された結果は、うまく考えられた絶妙の順位だった。
ピアノの演奏シーンも良くて純粋に音楽だけでも楽しめるし、こだわりの感じられる構図のカットもあって、見ごたえのある映画となっている。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/編集 石川慶
出演 松岡茉優/松坂桃李/森崎ウィン/鈴鹿央士/臼田あさ美/ブルゾンちえみ/福島リラ/眞島秀和/片桐はいり/光石研/平田満/アンジェイ・ヒラ/斉藤由貴/鹿賀丈史
音楽 篠田大介
撮影 ピオトル・ニエミイスキ