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「テイキング・サイド ヒトラーに翻弄された指揮者」 2001

テイキング・サイド ヒトラーに翻弄された指揮者(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 終戦後、ドイツで行われる非ナチ化裁判の事前調査を任された米軍少佐は、ナチス政権下で指揮者として活躍したヴィルヘルム・フルトヴェングラーを厳しく追及する。

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 ハーヴェイ・カイテル、ステラン・スカルスガルド出演。事実を基にした舞台の映画化作品。110分。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー - Wikipedia

 

感想

 戦争中のナチスの行為に義憤を募らせる米軍少佐が主人公だ。ナチス政権下で活躍した指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの責任を厳しく追及する。

 

 序盤に出てくるユダヤ人の大量の遺体の映像はショッキングで、主人公のナチスに対する怒りはよく理解できる。彼らに協力しているように見えた指揮者を、快く思わないのも当然だろう。だが何としてでも非ナチ化裁判で有罪にしようとする彼の意気込みには危うさがある。

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  それに、ナチスに反感を抱いていたならなぜ亡命しなかったのか?と指揮者を責めるのも酷だろう。人は生まれ育った場所を簡単には離れられない。逃げなくてもなんとかなるだろうと甘い期待を抱いてしまうものだ。迫害されていたユダヤ人ですら、多くの人が逃げずに現地に残り、そして殺された。近い将来に必ず大地震が襲うと警告されているのに、一向に逃げようとしない日本人ならその気持ちはよく理解できるはずだ。 

 

 一方の尋問される指揮者は、必死に弁明する。芸術と政治は別だ、ナチスとは一線を引いていた、ユダヤ人を何人も救った、と主張する。周囲からどう見えていたかはともかく、彼の中ではそうやって整合性を保とうとしていたのは事実なのだろう。概ね納得できる。

 

 

 ナチスに対する怒りを指揮者に激しくぶつける主人公とは対照的に、亡命したドイツ系アメリカ人の部下や、父親がナチスに抵抗して処刑された秘書が、彼に同情的なのは興味深い。尋問された演奏者たちも彼を庇おうとしていた。秘書が指揮者への厳しい尋問に、ナチスに虐げられたかつての自分がフラッシュバックしてつらい、と告白していたのが印象的だったが、当事者たちには一筋縄でいかない複雑な感情があるのだろう。

 

 また彼らには、芸術家に対するリスペクトも感じられる。戦後の破壊されて屋根もない劇場でコンサートが行われ、聴衆が雨の中、傘を差しながら楽しむシーンは象徴的だ。芸術がなくても生きていけるが、それでは心は死んでしまう。尋問が終わって主人公が窓を開けると、どこからともなく音楽が聴こえてきたのもそれを暗示しているかのようだった。芸術の役割についても考えさせられる。

 

 最後に実際に行われた非ナチ化裁判の結果が知らされるが、それは納得のいくものだった。ナチスに抵抗した人は称賛されるべきだが、迎合した人は、非難こそされても罰せられるべきではないだろう。

 

 酷いことをした人たちの仲間なのだから、とにかく罰しなくてはならないという感情は、やがて危険な行為に走らせる恐れもある。今のイスラエルの信じられない暴虐ぶりには、もしかしたらそんな心理があるのかもしれない。

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 威圧する米軍少佐役のハーヴェイ・カイテルと、苦悩する指揮者役のステラン・スカルスガルドの迫真の演技に惹きつけられ、二人の会話に考えさせられる映画だ。公開当時には考えられなかった現在の世界情勢を考えると、なおさら重苦しい気分になる。

 

スタッフ/キャスト

監督 サボー・イシュトヴァーン

 

原作 Taking Sides

 

出演 ハーヴェイ・カイテル/ステラン・スカルスガルド/モーリッツ・ブライブトロイ

 

テイキング・サイド - Wikipedia

 

 

登場する人物

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

 

 

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