★★★★☆
あらすじ
上司である国防長官の愛人であり、自分の恋人でもあった女性が長官に殺され、隠蔽目的で嘘の捜査の指揮を任されてしまった海軍少佐。
1948年の映画「大時計」のリメイク。原題は「No Way Out」。114分。
感想
冒頭で、合衆国議事堂から戦没者墓地、国防省ペンタゴンと、ワシントンDCの主要な施設が俯瞰のショットで順に映し出されていく。それぞれ単体では見たことのある場所の位置関係がよく分かって興味深かった。陰謀渦巻く政治の闇を描く重厚な物語の始まりを告げるようなシーンだ。
そんな始まりだったのに、次のシーンではノリの良い音楽が立て続けに流れ、いきなり濡れ場も始まってしまい、急に軽薄な雰囲気が漂うのが面白い。だが、あまりその落差を狙っているような気配はなく、いかにも80年代らしいスタイルだ。ある意味で、今ではあまり見なくなった「大人が見る映画」と言えるのかもしれない。「大人でも楽しめる映画」ではなく。
主人公は、国防長官の下で働くことになった海軍少佐の男だ。長官の愛人でもあった恋人が長官に殺されてしまい、それをもみ消すためのでっちあげの捜査の指揮を任されてしまう。まず、恋人が上司の愛人だと分かっても付き合い続けるのがすごいが、これもまた大人の世界だ。
長官側は、愛人の恋人に濡れ衣を着せて、殺してしまうことで事件を終結させようと目論んでいる。つまりターゲットは主人公なのだが、まだバレておらず、それが露呈してしまう前に何とかしようと主人公が奮闘する様子が描かれていく。データベース検索や画像処理など、今なら一瞬で終わる作業に時間がかかってしまっていることに牧歌的なものを感じてしまうが、すんでのところで目撃者から隠れたり、捜査を遅らせたりするシーンはスリリングだ。
基本的にはペンタゴン内で展開しながら、息苦しくならないように時おり外に出ることでメリハリをつけている。証人を消しに行く殺し屋に主人公が追われるシーンは、任務を優先せず主人公を捕えようとする殺し屋の意図が不明だが、緊張感が続く中で良いアクセントになっていた。
最後はわりと呆気なくケリがつく。それなら最初からその方向で動けば良かったのにと思わなくもないが、首謀者である長官顧問の狂いっぷりは見ごたえがあった。有能でも誠実でない人間は害悪でしかない。長官に誠実さが残っていたのがまだ救いだった。トップが不誠実だと不誠実な部下が集まり、やがて組織全体、それが政府なら国民全員にまで不誠実が広がっていく。歯止めがない。
金と権力をめぐる各部署の暗躍を描く陰謀渦巻く壮大な物語かと思っていたのに、愛人殺しの案外ちゃちな事件だったなと落胆させておいての、やっぱり壮大な物語だったと驚かせるラストは面白かった。いい余韻が残る。
スタッフ/キャスト
監督 ロジャー・ドナルドソン
原作 The Big Clock (English Edition)
出演
ショーン・ヤング/ウィル・パットン/ジョージ・ズンザ/レオン・ラッサム/イマン/フレッド・ダルトン・トンプソン
*クレジットなし
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