★★★☆☆
あらすじ
敵対する組織に壊滅的な打撃を受けたメキシコの麻薬カルテルの男は海外に逃れ、たどり着いた日本で復活を期して新たなビジネスをはじめる。
鏡三部作の完結編。直木賞受賞作。
感想
元麻薬カルテルで古代アステカ神話を信奉するメキシコ人の元に集った人々の群像劇だ。まずこのメキシコ人の物語に惹きつけられる。残虐な手口で巨大な麻薬カルテルを築くも敵対勢力に壊滅させられ、命からがら国外へと逃亡する。
本来ならこの時点で、彼はもう終わった人にしか見えないのだが、ここから再び大きな力を持とうと復活を期している。最初はどうなるか分からない状態だったのに、資金力と経験を活かして挽回し、着実に足場を築いていく。
彼の元には同じく闇の世界の人間が集まってくる。彼らの過去も紹介されていくが、共通項と言えばドラッグに関わりがある事だろうか。ある意味で裏の世界はドラッグで成り立っていると言えるのかもしれない。
それぞれの思惑が交錯しながら強大な組織が形成され、巨大な闇ビジネスが出来上がっていく過程は興味深く面白い。だが、古代神話や伝承が苦手な自分には、背景にある古代アステカ神話に関する話が長々と続く箇所はかなりしんどかった。これが全体を覆う禍々しさやメキシコ人の怪物じみたイメージを形成し、彼らの始めた血も涙もないビジネスに説得力を与えていて、効果的であることは理解できるのだが。
そして、冷酷で非人道的なビジネスをやっているわりには、それに関わる人たちが妙にクールなのが印象的だ。きっと金になるなら何でもいいと、人を人とすら思っていないからだろう。まさに血の資本主義だ。無差別殺人犯に感じるようなうすら寒い怖さがある。だがよく考えてみれば、ここまでえげつないことをしていなくても、人を人と思わないことで金を稼いでいる人は世の中にたくさんいる。
だが彼らは自滅してしまった。人を人と思わないのだから当然の帰結ではある。そして暴力の連鎖は終わることなく続いていく。裏の世界にやって来てしまった多くの人々の人生が絡み合う、壮大な物語だ。
著者
佐藤究
登場する作品
メキシコ征服記 1 (大航海時代叢書エクストラ・シリーズ 3)
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鏡三部作