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「ブッチャー・ボーイ」 1992

ブッチャー・ボーイ

★★★★☆

 

あらすじ

 アイルランドの田舎町の貧しい環境で暮らす少年は、友人と過ごす時間が心の支えとなっていたが、ロンドンから引っ越してきた一家の登場によって、様々な歯車が狂い始める。

 

感想

 父親は飲んだくれで母親は心を病み、最初から人生ハードモードの少年が主人公だ。幼い時はそんなことに気付かず、無邪気に友人と遊んでいたが、そんな幸福な時代は長くは続かない。大人たちの言動や態度を見ていれば、薄々自分の置かれた状況を察するようになる。そんな状況に抗おうと反発すればするほど、大人たちの偏見通りの結果を招き、ますます困難な状況に追い込まれてしまうもどかしさ。まさに負のスパイラルだ。

 

 まず何よりも、主人公が自分から離れて行った友人をいつまでも親友だと思い込んでいるのが切ない。しかも本当は見捨てられたことに気付いているのに必死に気付かない振りをしていることを、自分でも分かっているというのが泣ける。酷い状況にいる時は、何かにすがりたくなるものだ。

 

 

 普通の人生であれば、心の支えとなるものは徐々に増えていき、一つ一つの比重は相対的に軽くなっていくものだ。だが良いことなど何一つ起きない主人公に、支えとなるものが増えることはなく、幼い時に手に入れたほんのわずかな支えにしがみつくしかない。しかし、辛うじて彼を支えていたそれらすら、実はすべて虚飾だったと露呈してしまうのはなんとも残酷だった。現実は厳しい。

 

 世間に抗い虚勢を張って生きる主人公が、時々悪態をつきながら自然と涙がこぼれてしまっているのは、おそらく自分でも間違った道を後戻りが出来ないほど深く進んでしまっていることに気付いているからだろう。だけど彼にはもはやそうすることしかできない。

 

 そしてそうなってしまった自分を、誰かのせいにしたくなる気持ちもよく分かる。しかし得てしてそういう時は、正常な判断が出来ず、見当違いの相手に恨みを持ってしまいがちだ。まさに貧すれば鈍すで、すべての歯車が狂っていく。

 

 彼の心が成長する事なく、幼少時のままで止まってしまっていることを象徴するような、句読点のない拙い文章で綴られる悲しい物語。彼のやったことは悪いことだが、でも何もかも彼が悪いのか?彼だけの責任なのか?とやるせない気持ちになってしまった。

 

著者

パトリック・マッケイブ

 

 

 

登場する作品

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