★☆☆☆☆
あらすじ
美術館でテロに遭遇して母親を失うも、一枚の絵画を持ち去った少年。149分。
感想
母親が死んでしまったテロ現場で絵を持ち去った少年の物語だ。最初からすべてを明らかにせず、情報を小出しにしていくスタイルで描かれている。物語が進むにつれて次第に全貌が分かってくる仕組みだ。
だが、ひとつの謎が明らかになる前にまた別の謎を提示してくるので段々とイライラしてくる。特にテロに遭遇して母親だけが死んでしまった、という大前提となる情報を小出しにする必然性が全く分からなかった。詳細はともかく、少なくとも概要だけは最初にサッと提示してしまうべきだった。
さらには大前提どころか、母親を失った悲しみや天涯孤独的な不安、絵を盗んだ疚しさだとか、その絵を心のよりどころにしていることだとか、話の肝となる部分すらもちゃんと描かない。だから各シーンで何を描こうとしているのか、話の方向性が全く見えない。
そして各シークエンスのつながりもよく分からない。さっきはあの話をしていたのになんで今はこの話をしているのだ?と混乱して戸惑ってばかりだった。敢えて断片的に描いているわけでもなさそうで、単純に失敗しているだけなのだろう。まったく全体が一つのストーリーとして成立していない。
その他にも、主人公とこの人物ってそんな関係だったっけ?と思ってしまうようなシーンもしばしばあった。単行本4冊分もある長編の原作を、映画のためにうまく料理出来ていないのだろう。最初のシーンから最後のシーンまで一貫して何をやっているのだかさっぱりわからなくて、とにかく苦痛だった。もともと2時間半ある長い映画だが、体感的には8時間くらいあった。これならただ時計をじっと眺めているだけの方がまだましだと思ってしまうくらいだった。
それから主演のアンセル・エルゴートはいいとして、その他のキャスティングには失敗しているような気もする。主人公の友人をなぜアクセントにクセがあるキャラにしたのかも謎で、映画製作上のあらゆる選択を間違えて、そのすべてが観客をイライラさせる原因になってしまっている印象だ。唯一良かったのは映像の美しさだが、それが映画に名作の雰囲気を与えていることがまた腹立たしい。
こういう映画を見ても、きっと原作は面白いはずだから読んでみようかなと思える心の余裕がいつもはあるのだが、今回は原作も絶対つまらないはずと決めつけたくなるほどが心が荒んでしまった。原作も可哀想だ。
スタッフ/キャスト
監督 ジョン・クロウリー
原作 ゴールドフィンチ1
出演 アンセル・エルゴート/オークス・フェグリー/アナイリン・バーナード/フィン・ウルフハード/サラ・ポールソン/ジェフリー・ライト/ニコール・キッドマン/ウィラ・フィッツジェラルド/ルーク・クラインタンク/デニス・オヘア/ピーター・ジェイコブソン/ロバート・ジョイ
音楽 トレバー・グレッキス
撮影 ロジャー・ディーキンス