★★★★☆
あらすじ
冤罪でテロ事件の犯人とされてしまった青年とその父親。
実際に起きた冤罪事件をもとにした作品。原題は「In the Name of The Father」。
感想
有罪となった主人公親子を、同じ刑務所の同じ部屋に収容するというのはすごいなと思って観ていたのだが、さすがにこれは脚色だそうだ。しかし、父親と同じ監房でずっと一緒に過ごす事になったら、どんな気持ちになるのかちょっと想像がつかない。嬉しいような辛いような複雑な気分になりそうだ。受刑者に親が付き添う制度があったら、更生や再犯率にどんな影響があるのか、興味がある。
自白を強要された主人公の家族らが、芋づる式に犯罪者に仕立て上げられる過程は、強引すぎて呆れてしまった。呆れるどころか、そんなわけないだろうと笑ってしまいそうになるくらいなのだが、それを真面目な顔でやっている警察が怖い。連続テロで国中がパニックを起こしていた時だったので、警察にはプレッシャーがあったのだろう。
だが、それにしてもこの冷静さを失っている感じ、そして真実なんかよりも吊るし上げ出来る対象をいち早く仕立て上げることが大事と言わんばかりの空気はヤバかった。世の中全体がどうかしてしまっている雰囲気だ。ただ、世界各地で割とよくみられる光景ではあるが。
無実で収監されてしまい、あきらめて自棄になっている主人公とは対照的に、父親は冷静さを保ち、冤罪を晴らすために出来ることをしようとする。真犯人であるテロリストの協力の申し出すらも毅然と断る高潔さが印象的だった。ただ、逮捕前の父親がそんな聖人君子だったかというとそうでもなく、ただの普通の男にしか見えなかったので少し不可解な感じはある。でもIRAが跋扈するアイルランドの街で、家族を守りながら地道に生きてきたという事自体が、すでにそういうことなのかもしれない。彼なりに流されず、信念を持ってやって来たという事なのだろう。
エマ・トンプソン演じる弁護士の熱心な活動や、主人公の精神的な成長もあり、ついに主人公らは冤罪を果たすことに成功する。ただ、それは運が良かっただけ、という偶然に頼る部分が大きくて、正義は必ず勝つのだ、というような高揚感はあまりない。さらに、彼らを故意に犯罪者に仕立て上げた警察の誰もが罪に問われなかったという後日談が、いかにもな現実を見せつけるようでげんなりしてしまう。とはいえ、これも世界各地でよく見られる光景だ。どうせ彼らは、あの状況では仕方がなかったと言い訳し、それを擁護する人たちがある程度現われるのだろう。
映画は裁判ものというよりは、監獄ものと言った方がいいのかもしれない。獄中の様子や、そこでの親子関係を描いた部分が面白かった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ジム・シェリダン
脚本 テリー・ジョージ
原作 Proved Innocent: The Story of Gerry Conlon of the Guildford Four
製作総指揮 ガブリエル・バーン
出演 ダニエル・デイ=ルイス/ピート・ポスルスウェイト/マーク・A・シェパード/コリン・レッドグレイヴ/サフロン・バロウズ
音楽 トレヴァー・ジョーンズ