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「止められるか、俺たちを」 2018

止められるか、俺たちを

★★★★☆

 

あらすじ

 映画監督の若松孝二が代表を務める映画製作の独立プロダクション・若松プロで、助監督として働くことになったフーテンの若い女。

 

感想

 若松孝二を中心とした周辺人物たちの群像劇。あまり若松孝二については詳しくは知らなかったのだが、井浦新が演じる彼を見ていると、こんな人だったのかと意外な感じがした。飄々として何を考えているのか分からない捉えどころのない人だ。もっと熱くて頑なな人かと思っていたのだが、それは晩年のイメージしか知らないからだろうか。しかし、喧嘩腰で向かってくる相手でさえも受け入れてしまう彼の器の大きさ、包容力はすごいなと感心してしまった。そんな人なのに朴訥とした訛った喋り方で「交番を爆破します」とさらっと普通に怖いことを言っちゃったりするのは面白かった。そういう激しい感情をわざわざアピールしたりせず、ただ静かに心に秘めている。こういう人こそが本物のヤバい人なのだろう。

若松孝二全発言

若松孝二全発言

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 そんな彼の周りに集まる人々は当然、個性的だ。皆が熱い理想を持っているが、だからといって意識が高いだけの仲良しグループじゃないのがいい。撮りたい映画を作るためには、金になる映画を撮ることも厭わない現実的な考え方をしている。こうでなければ継続させることなんてできない。

 

 すごい人たちと一緒に仕事をするということは刺激的で楽しい事には違いないのだが、いつまでもそれに甘んじていいのか、自分はこの先どうするのだ?と疑問を持つようになるのも理解できる。多くの人がやって来るが、そうやって一人ずつ現場を去っていく。でもそれが永遠ではなかったからこそ強く輝き、かけがえのない思い出になる。 

 

 

 監督の周りに集まった人々を見つめ続けるのが、主人公である助監督の女性だ。演じる門脇麦の演技はいつもはあざとく見えるのだが、今回はそんな風には感じず普通に観ることが出来た。しかし助監督というのは酷な仕事だ。監督になるための修行のようなものだが、ようやく映画が撮れたとしてもそこで才能がないと切り捨てられてしまうこともある。そうなると才能もないのに長年修行して時間を無駄にしていた、ということになってしまう。せめて最初に才能があるかどうかをテストしてから修行させるべきだろう。採用する側も役に立たない監督を時間をかけて教育するという無駄を省くことが出来る。

 

 常に持ち歩いていたボトルのウィスキーが空になり、他の多くの者たちと同様についに主人公も皆の元を去ることになる。様々な問題を抱えた彼女が色々考えた末に出した結論としては寂しい去り方ではあった。 

 

 出入りの激しい世界の彼らの情熱や青春模様は興味深かったが、皆のプライベートな姿はほとんど描かれることがなかったので、そこに物足りなさは感じる。実際の彼らもあまりプライベートは見せなかったという事なのだろうか。若松監督が歌わないはずの歌を皆が去ってからひとり口ずさんだラストシーンもそういうことなのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督 白石和彌

 

脚本 井上淳一

 

出演 門脇麦/井浦新/山本浩司/タモト清嵐/毎熊克哉/満島真之介/渋川清彦/高岡蒼佑/高良健吾/寺島しのぶ/奥田瑛二/吉澤健

 

音楽 曽我部恵一

 

止められるか、俺たちを - Wikipedia

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登場する人物

若松孝二/足立正生/沖島勲/大和屋竺/秋山道男/小水一男/福間健二/荒井晴彦/赤塚不二夫/大島渚/吉澤健

  

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