★★★★☆
あらすじ
10年暮らした東京から地元に戻ったフリーライターの女は、かつての親友と共に高校時代に憧れていた男に会いに行くことになる。
感想
東京で何者にもなれず、閉塞感漂う地元に戻って来た女が主人公だ。まず舞台となっている富山市の、いかにもな地方中小都市の鄙びた感じが良い。同じようなチェーン店ばかりが並び、既視感すら感じるありふれた田舎の国道の様子や、スクラップアンドビルドの回転が緩やかで周回遅れ気味の街の様子など、華やかな東京とは対照的な風景が広がっている。
そして狙っているのかたまたまなのか、どのシーンもスッキリしないどんよりとした空模様になっていて、それがまた都会から戻ってきてしまった主人公の沈んだ心を表しているかのようだった。映画の内容にぴったりとハマっている。
主人公を中心にかつての同級生ら何人かの現在と過去が交互に描かれていく群像劇だ。最初は分からなかった各登場人物同士のつながりが、時間と共に次第に見えるようになってくる。
印象的なのは、現在の皆の表情が一様にどことなく暗いことだ。明確な目的があるわけでもなく、なんとなく地元に残ってしまうとこんな風になってしまいがちだ。未来への展望もなく、果てしなく続くように思えるありふれた日常に倦んでいる。嫌になっても他に行く場所もない。
そんな彼らがやってしまいがちなのが、輝いていた学生時代への回顧だ。楽しかった思い出話を何度も繰り返し、元同級生たちの近況を噂話して盛り上がる。今回は勢い余って想い出を訪ね歩く行動にまで出てしまうわけだが、そんなことはあまりしない方がいいよと思い知らされるストーリーになっている。
そもそも主人公とかつての親友の間になんとなくよそよそしい空気が流れていたこと自体が、それを暗示していたといえる。時の流れが何もかもを変えてしまい、もはや昔と同じというわけにはいかない。
過去にすがってそこに何かを期待しても、もうそこに戻ることは絶対にできない。時と共に想い出を美化してしまっていることに気付かず、思わぬタイミングで傷つけられてしまうこともある。先の見えない現在との落差に、ますます落ち込むことにもなりかねない。
だがあの夏の日のプールのシーンのように、輝いていた瞬間が確かにあったことは事実だ。そんな瞬間をまた迎えるために、前を向いて歩いていくしかない。迎えを待つのではなく、運転免許がないなら取ってでも、自分から行くことが大切だ。
地方でくすぶる若者たちを、役者陣が自然体で演じていた。一人くらい下手な人がいそうなものだが、皆良かったので演出が上手かったということなのだろう。
スタッフ/キャスト
監督 廣木隆一
原作 ここは退屈迎えに来て
出演 橋本愛/門脇麦/成田凌/マキタスポーツ/村上淳/渡辺大知/岸井ゆきの/内田理央/柳ゆり菜/瀧内公美
音楽 フジファブリック