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「死の棘」 1977

死の棘 (1977年)

★★★★☆

 

感想

  夫の浮気をきっかけに心を病んでしまった妻。

 

 あらすじ

  主人公である夫の浮気をきっかけに心を病んでしまった妻。浮気相手との出来事を微に入り細を穿つように何度も執拗に質問される主人公はたまったものじゃない。 

 

(前略)あらわれているのは、妻が私の不貞と背信を突つき、その腐肉をさらけ出すことに執心して、一向にとどまるようすの見えない光景だ。

p73 上段

 

 つけていた日記をもとに、すでに忘れてしまったようなことまでも質問され、答えられないとなじられる。開き直ってしまえばいいのかもしれないが素直に自分が悪いと反省してしまっているのでそれもできず、明らかにおかしくなってしまった妻が自殺でもしないか不安で出ていくことも出来ない。地獄だ。

 

 

 当然、そんな地獄の日々の主人公もおかしくなる。気が触れたふりをすると自身では言っているが、もはやふりではなく病んでいるといっていいだろう。今は安定している妻がいつ豹変するか不安で耐えられず、敢えて自分からけしかける行動をとってしまうのは相当にヤバい。夫婦で衝突を繰り返す修羅の日々だ。延々とそんな日常が描かれて、読んでいるこちらまでどんどん陰鬱な気分になってくる。

 

 そんな二人のもとで生活をしなければいけない幼い子供たちが可哀そうすぎる。両親の顔色を窺い、時に諍いに利用され、それでも二人に頼らざるを得ない。絶対に悪い影響を受けそうだ。次第に息子の言動が不穏になっていくのが印象的だった。

 

 悪夢のような日々を抜け出すために、主人公は思い切って家族を捨てて出ていくことだって出来なくはないはずだが、どうしてもそれが出来ない。たまに一人で外に出かけることがあるとしばし自由を感じるのだが、次第にその間に妻にもしものことが起きているかもしれないという不安が大きくなってしまう。自分のせいで病気になったのだから、自分がなんとかしないといけないと心に決めている。

 

 どう考えてもつらい日々なのに、主人公はそこに「幸福」という言葉が浮かんでくるのがすごい。この日々を支えているのは、結局のところ、主人公の妻への愛なのだなと思わずにはいられない。妻の病も夫を愛しているが故だ。愛し合うがゆえに別れられず傷つけ合うしかないという、苦しいが圧倒される物語。

 

 先日見た映画「海辺の生と死」は、この二人の物語の前日譚だと思うとまた印象が違ってくる。残念ながらこの映画自体の評価は変わらないが。

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著者

島尾敏雄

 

死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)

 

死の棘 - Wikipedia

 

 

登場する作品

シェーン(字幕版)

「三つの歌」

狐になった夫人 (1955年) (新潮文庫)

 

 

関連する作品

「死の棘」日記 (新潮文庫)

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映像化作品 

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