★★★★☆
あらすじ
別れた妻に未練を残し、金目のものを求めて母親の元へ足しげく通う売れない中年の作家。
感想
主人公は、金が入ってもすぐにギャンブルで使い果たして後輩や姉に借金する生活を送り、未練のある別れた妻をいつまでも遠くから監視するようなダメ男。演じる阿部寛は本当にダメ人間の顔や風貌になっていて、そんな主人公を好演している。しかし母親からも息子からも、すぐにお金の心配をされてしまう中年男というのはある意味ですごい。
そして息子へのプレゼント代を得ようと、母親の住む団地に金目のものを求めて足繁く通う主人公。最低な動機だが、それでもひとり暮らしをする母親は、そんな事情を知ってか知らずか、息子がやって来ることを無邪気に喜んでいる。お互い既に相当ないい歳なのに、顔を合わすとやっぱり親の顔になり子の顔になっていて、いつまで経っても親子は親子なのだなとしみじみとしてしまった。この年老いた母親を演じる樹木希林も、いつものごとく良い演技だ。
月に一度の面会日に息子を母親の元に連れて行き、元妻が迎えにやって来るも台風の影響によって共に留まり、一晩を過ごす事になった元家族。何も言わないのに阿吽の呼吸で夫婦のよりを戻そうとアシストする母親のすっとぼけた演技が面白かった。どこか胸騒ぎを覚える嵐の夜に、皆がいつもは語らないことを語り、それぞれの本心が垣間見える。母親の「なんで男は今を愛せないんだろう…」という言葉が胸に沁みた。
台風がすべてを洗い流してくれたかのように、吹っ切れた顔で朝を迎えた主人公たち。どんなに責められても、やっぱり未来を夢見たくなるし、過去を忘れたくない気持ちはある。もうそれは仕方がないとあきらめるしかない。人間の芯の部分は変えようとしても、ちょうどカチカチに凍ったカルピス水のように固くて、簡単には変えられないのだ。そしてそんな芯の部分は両親によって育まれている。死んだ父親が着ていた服を着て、父親が使っていた硯をする主人公の姿が象徴的だったが、やはり血は争えないものだ。父親のようにはなりたくないだとか、嫌いだとか言ったところでやはり似てきてしまう。そんな自分にもどかしさを覚えながらも、それでも生きていくしかない。
エンディングで流れるハナレグミの「深呼吸」がグッとくる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原案/編集
出演 阿部寛/真木よう子/小林聡美/リリー・フランキー/池松壮亮/小澤征悦/吉澤太陽/古舘寛治/峯村リエ/ミッキー・カーチス/高橋和也/橋爪功/樹木希林/なすなかにし
音楽 ハナレグミ
登場する作品
別れの予感 *映画タイトルもこの曲の歌詞から取られている