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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「変半身」 2019

変半身 (ちくま文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 島伝統の祭りで行われる秘密の儀式に参加させられた主人公は、式の途中で仲間と共に逃げ出すことに成功する。タイトルの読みは「かわりみ」。表題作のほか「満潮」も収録。

 

感想

 なんとなく横溝正史もののような、日本の古い因習を題材にしたおどろおどろしい物語かと思わせるような始まりだが、思わぬ方向に物語は進んでいく。主人公はこれまで信じていたものが単なるでっち上げだった事を知り、何もかもを疑いの目で見るようになってしまう。そして何も疑うことなく生きている人たちを不思議に感じている。

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 しかし、ふとしたきっかけで久々に島に戻ることになった主人公は、そこで騙されていたものをまだ信じたい気持ちが自分の中にあることに気づく。結局、人間は何かをよりどころにしないと生きていけないものなのかもしれない。そんな中で、世の多くの人たちがよりどころにしているものの見方に違和感を感じてしまう人は、きっと生きづらいはずだ。皆が普通にやっていることでも、いちいち引っ掛かってしまって普通にやることが出来ない。

 

 戸惑ったような、でも「こわい」と感じることがそれが真実である証拠であるような、不安定な目で、女の子が私を見た。

p100

 

 考えてみれば、世に蔓延る陰謀論も実際はものの見方の一つでしかない。ただある人々は、そんな見方があるのかと驚いたことを、真実を見つけたことと勘違いしてしまうのだろう。そして真実だと思ってしまったら、もう簡単には元に戻れなくなる。なんでもその見方を通してものを見るようになってしまう。はたから見ればバカみたいだが、そう思っている多くの人が備えているものの見方も実は間違っている、なんてこともあるから世の中は分からない。

 

 そんなようなことを示唆しながら、うまくまとまる程よい着地点で結末を迎えるのが普通の小説だが、これは着地を拒否してさらに高みに飛翔していこうとする。ストッパーなく突き進んでいく展開には狂気を覚えた。別の意味でおどろおどろしさがあるエンディングだった。

 

 

 もう一編の小説「満潮」は、潮を吹きたいと言い出すストーリーからして狂気を感じるのだが、これもまた疑ってかかることを描いているように感じる。どこかで自分は何かに騙されているのではないか、という不安を常に著者は抱えているのかもしれない。自分自身で確認することでそんな不安を払しょくすることが出来れば、確かに晴れやかな気持ちになれるのは間違いないとは思うが。

 

著者

村田沙耶香

 

 

 

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