「私は告白する」　1953

★★★★☆

あらすじ

　真犯人から殺人の告解を受けた神父は、自身が嫌疑をかけられて逮捕されてしまう。

感想

　神父に罪の告白をするも、警察に通報されるのではないかと怯えるようになった犯人と、主人公である神父の緊張感のある関係が描かれていくのかと思っていたのだが、意外にもその話は一旦脇に置かれてしまう。代わりに守秘義務から犯人を明かせない主人公自身が、状況証拠から犯人に疑われ、追い詰められていく様子が描かれていく。

　主人公がアリバイを示して身の潔白を証明すればいいだけなのだが、それが出来ない別の事情も抱えていることが仄めかされており、何やら気になる展開だ。

　やがてその事情に関わっていた女性が責任を感じ、勇気ある告白をして主人公の疑いを晴らそうとする。主人公の頑なな沈黙ぶりに、きっとスキャランダラスな秘密があるのだろうと想像していたのに、明かされた真実は全然たいしたことがなくて拍子抜けしてしまった。そして自身が不利益を被ることを承知で女性の名誉を守ろうとしていたことが分かり、主人公の誠実な人柄に胸を打たれる。

　だがこの女性の告白は逆効果となってしまった。逆に疑いは深まってしまい、遂に主人公は逮捕され裁判にかけられる。なかなか皮肉な展開だ。そしてこの絶体絶命な状況でも真犯人の名前を言おうとしない主人公。万事休すかと思ったが、陪審員たちのまともな判断に救われた。

　正直、この映画で一番驚いたのはこのシーンかも知れない。陪審員制なんて雰囲気に流されてしまうものだと思い込んでいたのに、冷静な対応を見せたのがすごい。これはこの映画のテーマにもなっていそうな、モラルを重んじる世界観の中の出来事だからだろうか。なんだか感心してしまった。

　終盤にようやく、一旦脇に置かれて放置されていた真犯人が存在感を増してくる。そして図らずも自ら罪を告白してしまい、エンディングを迎える。タイトルに違わず、この映画には何度も秘密を告白するシーンが登場するが、主人公だけが唯一沈黙を守ったことになる。主人公の信仰心の篤さを示した重厚なヒューマンドラマと言えるが、もしかしたら、告白なんかしないで黙っていた方がいいかもよ、という風刺が混じっているのかもしれない。

　主人公のモンゴメリー・クリフトは男前だし、映画全体の陰影の深い映像も美しく、とても見応えのある作品だった。