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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「風の視線」 1963

松本清張 風の視線

★★★☆☆

 

あらすじ

 新婚夫婦を中心とした人間関係の中で渦巻く愛憎劇。

 

感想

 新婚夫婦を中心とした群像劇だが、新婦はかつて上司と関係を持っており、その上司の妻は新郎が想いを寄せている、しかしその上司の妻は別の男といい関係になっており、そしてその男は新郎の仕事の面倒を見ていてと、つながりが連鎖した複雑で濃厚な人間関係となっている。全部で三組の夫婦が登場し、その愛憎劇が描かれていく。

 

 その三組を見ていて痛烈に感じるのは、どの夫も皆自分勝手すぎるということだ。それぞれが自分の妻を顧みることなく、無邪気に別の女の尻を追いかけている。

 

 

 中でも特に、シンガポールで支社長を務めている元華族の男が、いかにも昭和の下品な中年男といった感じで気持ち悪かった。久々に帰国するも妻には冷たい言葉を浴びせ、家には帰らずホテルに泊まり、かつて付き合っていた元部下で今は新婚の若い女に再び夢中になっている。普段は偉そうにしているのに、彼女を相手にするときは子供と接するときのようにデレデレの猫なで声なのが気色が悪い。

 

 それから新郎の男もまた酷い。新婚早々、お互いあまり関わらず勝手にやりましょうと一方的に言い放つ。そもそも結婚の経緯も酷くて、見合い結婚だが、事前に顔を合わす事すら拒否してそのまま結婚を決めてしまった。別に夫婦のかたちは色々あっていいとは思うが、少なくとも事前に相手に了承は得るべきだろう。挙句の果てには妻を追い出してしまう。

 

 これらの男たちを当時の観客たちはどう見ていたのかは興味がある。今と同じようにひどい男たちだと思って見ていたのか、特になんの引っ掛かりも覚えず、よくある事だと流していたのか。普通に「妾」や「二号」なんて言葉が飛び交っていたくらいなのだから、きっと後者なのだろうとは思うが。

 

 一方の女たちと言えば、そんな男たちに翻弄されるままで、それを見守る事しかできない。慰めといえば、時おりマッチ売りの少女のように儚い夢を見るだけだ。冷めた結婚生活をズルズルと送っているうちにしがらみも生まれ、それに捕らわれて離婚はますます困難なものとなっていく。

 

 今でも日本の支配層、いわゆる上級国民の間では同様のことが起こっているのかもしれないが、昔は不幸な結婚が多かったのだなと感慨深くなる。今は割と簡単に離婚できるからまだましかもしれない。

 

 男女それぞれの思いが交錯し見ごたえのあるメロドラマとなっているが、60年前の作品なので、さすがに時代の違いによる感覚のズレを感じてしまう部分が多かった。例えば、なぜ新婚夫婦の結婚をとりまとめた女性が自責の念に苛まれていたのかや、新婦がかつて無理やり関係を持たされた元上司になぜ思慕の情のようなものを見せるのか等は、正直、どういうことなのかうまく理解できず、釈然としなかった。

 

 だがそう思えるということは、何もかもが停滞しているように感じる日本もなんだかんだで少しずつ前進しているということで、ちょっとぐらいは安心していいのかもしれない。だた、そう思ったそばから、いやいや前進のペースが遅すぎるだろ!とツッコんでしまうのだが。

 

 それからちょっと顔見せする程度だと思っていた原作者の松本清張が、意外と出番があってやる気を見せて頑張っていたのが面白かった。

 

スタッフ/キャスト

監督 川頭義郎

 

原作 風の視線(上): 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫プレミアム)

 

出演 新珠三千代/岩下志麻/園井啓介

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山内明/奈良岡朋子/松本清張/野々村潔/加藤嘉

 

音楽 木下忠司

 

風の視線 - Wikipedia

 

 

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