★★★☆☆
あらすじ
ブラウン神父が数々の事件を解決していく短編集。シリーズ第1作目。別邦題に「ブラウン神父の無心」「ブラウン神父の無垢なる事件簿」など。
感想
推理小説で、事件を解決していく主人公がブラウン神父だ。シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロのような名探偵的存在であるのだが、物語のなかでの彼の存在感はかなり薄い。
彼は事件現場に颯爽と現れるのではなく、いつもなんとなくその片隅にいるような目立たない存在だ。あまり主人公のキャラクターについて語られることもないので、この短編集を読み終えても、結局彼がどんな人物なのかは掴み切れなかった。
各短編における推理にしても、助手を従えて現場を見てまわったり、容疑者たちと丁々発止のやり取りをするでもなく、皆から少し離れて自分の頭のなかだけで静かに考え、いつの間にか一人で解決してしまっていることが多い。そのため会話は少なく、状況説明による記述で地味に展開していく。読むのが若干しんどかった。
ただ各物語のトリック自体は面白く、一般的な推理小説のように登場人物の背景をもっと詳しく描いたり、会話を盛り上げたりすれば、どれも長編小説くらいのボリュームになりそうなものばかりだ。悪く言えばあっさりとしすぎ、良く言えば手軽に楽しめるシンプルだが濃密な短編だといえる。
主人公の相方のような存在が、最初は名の知れた探偵で、その次に彼の天敵であった改心した元大犯罪者へと変わる設定が面白かった。主人公が神父だからか、犯人を逮捕するのではなくて、改心を促し自首を勧める結末が多い。相棒が元犯罪者なのも、その主人公の方針の一環を示していると言えるのかもしれない。
なにしろ、ユーモアのない陽気さというやつは、まったくたまらないものですからな
p341
ただ、だからと言ってこれは品行方正なだけの真面目なお話かといったら、そうではない。風刺やユーモアがあちこちに埋め込まれ、時おりニヤリとさせてくれる。上記の言葉も本当にそうで、元気一杯なだけなのに自分のことを面白いと思っている人を見てしまうと苦々しい気分になる。
ブラウン神父の風刺やユーモアがどれくらい刺さるかによって、このシリーズを楽しめるかどうかが決まってきそうだ。
著者
G・K・チェスタトン
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