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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ゼロの焦点」 1961

ゼロの焦点

★★★★☆

 

あらすじ

 結婚直後に出張先の金沢で消息を絶った夫を探す新婚の妻。

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感想

 序盤に主人公の夫が出張に出かけた後、この夫婦がどのように結婚に至ったのか、お見合い、結婚式の様子などを簡潔に描いてみせる構成は、テンポが良くて小気味よかった。この映画はこの後も時々時系列を巻き戻しながら、無駄なくリズム良くシーンをつないでいくので、ダレることなく見ることが出来た。

 

 そしてストーリーも意外な展開を見せる。映画の核心かと思われた夫の消息は中盤で早くも明らかになり、その後はなぜそのような結末となったのか、その経緯に関心が移っていく。そしてそこで見えてくるのは、必死で生きてきた人々の姿だ。終戦直後の混乱の時代をなりふり構わずがむしゃらに生き抜き、ようやく息がつけるかと思ったその時に、後ろめたい過去に苦しめられてしまうのは辛い。その過去があったから今があるというのに。成功した人ほどきっとそれに苦しめられるのだろうと思うと、人生の無情を感じてしまう。

 

 

 最後は崖の上での犯人の告白シーンだ。2時間ドラマの定番シーンという印象だが、一説にはこの映画が起源とも言われているらしい(下記リンクでは違う、との事だが)。吹きすさぶ風の中での犯人の告白は悲壮感が漂うし、逆上した犯人に突き落とされてしまうのではという緊張感もある。それに単純に崖自体がどこか恐ろしいものでもあるので、確かに心に残りやすいかもしれない。初めて見る人には相当なインパクトを与えそうだ。

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 しかし、この映画が起源ということは、最後は崖の上、という演出は日本でしか見られないものなのだろうか。海外の映画でもそれなりに崖は登場するが。

 

 そんな崖の上のシーンだが、それまでの小気味の良い展開から一転して、たっぷりと時間をかけて描かれる。クライマックスだし、このためにテンポよく描いてきたとも解釈できるのだが、急に少し間延びしてしまったように感じてしまった。だがきっとこれは今の感覚で見るからそう感じるだけで、逆にそれまでがあまりにも現代的なリズムだったということでもある。

 

 まず主人公が推理し、その後に犯人が訂正しつつ真実を語っていく。それまで伏せていたシーンとシーンの間にあった出来事も明らかにされて、これまで見ていた物語がまた違ったものに見えてきて面白い。そして様々な人々の思いが交錯して起きた事件の真相が明らかになるにつれ、なんとも言えない物悲しさに包まれていく。正解なんてどこにもないのではないか、と思ってしまうような問題が起きることが人生にはある。

 

スタッフ/キャスト

監督 野村芳太郎

 

脚本 橋本忍

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原作 ゼロの焦点(新潮文庫)


出演 久我美子/高千穂ひづる/有馬稲子/南原宏治/西村晃/加藤嘉/穂積隆信/高橋とよ/沢村貞子

 

音楽 芥川也寸志

 

ゼロの焦点

ゼロの焦点

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ゼロの焦点 - Wikipedia

 

 

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