★★★★☆
日本の新聞社のタイ支局に勤める男は、現地で行われる日本人の心臓移植手術についての情報を得て、取材をはじめる。
フィクションではあるが、ゾッとするような出来事が次々と起こる。すべてが事実ではないにしても、ほぼ同じようなことはきっと起きているんだろうな。この映画では、ゾッとするような出来事は徹底して醜く描いている。登場するのは、醜い体型の醜い言動の人物ばかり。
こういう社会の暗部というものはかつてはどこの社会にもあったが、法整備や取り締まりで一掃されつつある。だけどもまだその法整備や取り締まりが甘い社会が目を付けられて、人々を吸い寄せる。結果として、その社会が他の社会の暗部の役割を引き受けることになってしまっている。
それに関わる人達も複雑な事情を抱えている。単純に金儲けのためだけではなく、なんとか生き残るためだったり、そうするしか生きていくことができない状況にある人間もいる。そしてシステム化され、それぞれが役割を分担することで、関わる人々は淡々と仕事をこなすだけで、大きな罪の意識を感じなくても済むようになっている。
もはや問題解決のためにどこから手を付けて良いかもわからないほど複雑になってしまっているなかで、宮崎あおい演じるNGOの女のように誰か一人をつかまえて責め立てた所で何も状況は変わらない。しかし、悲惨な状況を目の前にしてどうすることも出来ないというのも、なかなか精神的に辛いものがある。
最後は江口洋介演じる主人公の意外な真実が明かされるというサスペンス的な展開が待ち受けていて、ドキュメンタリー調だったのが急に映画的になった印象。
監督/脚本 阪本順治
出演 江口洋介
音楽 岩代太郎