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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「「男はつらいよ」を旅する」 2017

「男はつらいよ」を旅する (新潮選書)

★★★★☆

 

 映画「男はつらいよ」シリーズの舞台を巡る紀行文。

 

 「男はつらいよ」の魅力は渥美清演じる主人公、車寅次郎の魅力というのが勿論大きいが、彼が旅する日本各地の風景というのも大きな要素となっている。今ではあまり見ることのできなくなった古き良き時代の日本の風景が、映画の中に残されている。そんな景色を求めて著者が日本各地を旅する。

 

 鉄道好きでもある著者なので、路線や車両、駅に関する記述が多い。今では廃線となっている路線も多く、「男はつらいよ」の中に当時の路線を車両が走る様子が「動態保存」されている、と表現しているのが面白い。しかし、著者のような鉄道好きでも、見たいローカル線の駅で降りてしまうと次の電車が来るのは数時間後で時間を浪費してしまうので、車で移動して駅を見て回っているというのは、ちょっと皮肉を感じてしまう。単純に移動が目的だったら列車に乗っているのに、じっくり見たいからこそ車移動を余儀なくされている。

 

 「男はつらいよ」シリーズのすべての内容を覚えているわけではないが、軽くあらすじを説明されるとなんとなく思い出してくる。そんな映画のロケ地を旅する中で著者が披露する映画に対する考察や、寅の母親役を演じたコテコテの関西人に見えるミヤコ蝶々は実は東京生まれ、といったような豆知識も面白い。

主観(自分を立派な渡世人と思い込んでいる)と客観(端からは間抜けにしか見えない)の大きな落差は、寅の特色であり、それが笑いを生んでゆく。

p115

 

 車寅次郎の魅力は確かにこういう所にあるような気がする。誰にでもあるような悲しき理想と現実のギャップ。寅さんのように描けばコミカルになるし、また別の描き方をすれば悲劇となるのかもしれない。

 

 誰も日本すごいと言っていなかった時代に、当たり前過ぎて誰も気づいていなかった素晴らしき日本の風景を意図的にせっせと映像に残していった山田洋次はやっぱりすごい。結果としてこのシリーズは発展していく日本と変わりゆくその風景を記録した貴重な映像資料にもなっている。そういえば、シリーズ末期はふさわしい映像を求めてロケ地がどんどん辺鄙な場所になっていたような印象だった。

 

 だからこそ映画の中の風景を求めて、多くの人が著者のようにロケ地を訪れているのもしれない。自分も印象的なシーンの場所だったり、旅先で仕入れた現地の地図に「男はつらいよのロケ地」という記述を発見すると、とりあえず行ってみたくなってしまう。

kibi6.hatenadiary.jp

 何なんだろう、あの感覚。寅さんが見た風景を自分も同じように見ていると感じたいからだろうか。読んでいると、まだ行ったことのない映画の舞台へ旅をしたくなってくる。

 

著者 川本三郎

 

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