★★★★☆
内容
ジャーナリストとして戦争や迫害、貧困など不幸に見舞われた国々を取材してきた著者が、あまり報道されることのない幸せに着目し、その観点から各国を取材する。
感想
著者が訪れる国々は様々だ。幸福度調査でポイントが高かったアイスランドやスイス、国民の幸福の量を基準に国の政策を考えるブータン、幸せには不可欠と思われるお金を大量に保有するカタール、そしてその逆に幸福度が低いとされるモルドバやイギリスのある地方の町。様々な土地に出かけ、出会った人びとに幸福とは何か?と問いかける。
各国での取材のどれも面白かったが、中でもアイスランドとモルドバというあまり馴染みのない国の話が面白かった。
太陽が見えない極夜の日々が続く極寒の地であるアイスランド。だけど人びとは芸術を愛し、皆と酒を酌み交わし、失敗を恐れず転職を繰り返し、人生を楽しんでいる。今回、最も行ってみたくなった国だ。
それぞれの国の人々が幸せについて語る言葉は、思っている以上に多様で様々な考え方を知ることができ、何故か時に胸にこみ上げるものがあったりもした。
国によって考え方の違いはあるが、共通しているものもある。まず何よりも大事に思えるのが、他者との関係だ。お金の有る無しに関わらず、他人のことを思いやったり、助け合ったりできる環境がある事が幸せには重要だ。
「私の問題ではない」というのは人生哲学の一つではなく、心の病である。それは悲観主義に匹敵する。他人の問題は実際に自分の問題でもあるのだ。隣人が職を失ったと聞くと、自分は飛んできた弾丸を避けたと思うかもしれない。でも実はそうではない。その弾は自分にも命中している。まだ痛みを感じられないだけだ。
単行本 p291
新聞の国際面に載るような取り立てて不幸な事件が起きているわけでもないモルドバが、なぜ幸福度が低いかを著者が考察した言葉。国も企業も家族すらも信頼できない人々が、幸せになれるはずがないことは理解できるような気がする。こんな状況ではたとえ幸せを感じたとしても、その喜びを分かち合う人はいない。きっと互いに嫉妬したり、マウントを取り合ってしまう国は幸せではないのだろう。
米国人の筆者が取材したどの国にも、同じ米国人が必ずいるというのも興味深い。仕事で仕方なく住んでいる人もいるが、その地が気に入って移住してきた人もいる。必ずしも生まれ育った国や場所で幸せになれるわけではない、ということを物語っているような気もする。そういった意味でも、自分が幸せな人生を送るにはどういう考え方が必要で、何をするべきか、色々と考えさせられる一冊となっている。
著者
エリック・ワイナ―
登場する作品
チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)
You're No Good (2015 Remastered Version)
「Gross National Happiness and Development」 Jeff Johnson
Cities in Civilization: Culture, Innovation, and Urban Order (Phoenix Giants)
フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
「The structure of psychological well-being」 Norman M. Bradburn
勝負の終わり・クラップの最後のテープ (ベスト・オブ・ベケット)
The American Paradox: Spiritual Hunger in an Age of Plenty
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