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「戦国十二刻 終わりのとき」 2016

戦国十二刻 終わりのとき (光文社時代小説文庫)

★★★☆☆

 

内容

 豊臣秀頼、山本勘助、徳川家康ら戦国の雄たちの死までの最後の24時間を描く短編集。

 

感想

 大坂夏の陣で死んだ豊臣秀頼を描いた「お拾い様」。淀殿は豊臣家の世継ぎの母親と捉えがちだが、織田家の者でもある。そちら側から見ると色々と歴史の見え方が違ってくるという事が良く分かって興味深い。大きな歴史の文脈で見ているだけでは見失いがちな基本的なことがあることを教えてくれた。

 

  いくつかある短編の中で一番気に入ったのは伊達政宗の父、輝宗を描いた「子よ、剽悍なれ」。親子で下克上を繰り返しながら非情になりきれなかった代々の伊達家の当主たち。自身も徹しきれなかったその非情が、息子にあることを期待している。そして、家督を譲られながらも全権を渡さない父親に憎しみを覚えている息子の政宗。

 

 

 そんな親子なのだが、二人の間に親子の愛情のようなものもしっかりと見えるところが切ない。弱さを見せるとすぐにやられてしまう戦国の世の厳しさを感じる。父親が死に至る出来事が、事件なのか陰謀なのか曖昧になってしまっているところが上手い。

 

 今回の短編の中では唯一、天寿を全うした徳川家康が描かれた「さいごの一日」。戦国時代の覇者でもあり、布団の上で死ねた事もあり、幸せな人生だったのだろうと思ってしまうが、こうやって人生を振り返るとそんなこともないのかと考え直してしまう。長い時間をかけて天下を取った人だけに辛い事ばかりで、天下を取った後の人生もそう長くはなかった。大坂夏の陣が74歳の時でその次の年に死んでいるということは、ほとんどゆっくり出来る時もなかったということか。

 

 その他、今川義元や山本勘助、足利義輝とそれぞれ趣向を変えた死の直前の物語が描かれていて読みごたえがある。

 

著者

木下昌輝

 

戦国十二刻 終わりのとき (光文社時代小説文庫)

戦国十二刻 終わりのとき (光文社時代小説文庫)

 

 

 

登場する作品

当代記 駿府記 (史籍雑纂)

敦盛 (対訳でたのしむ)

 

 

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