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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「それから」 1985

それから

★★★★☆

 

あらすじ

 実家からの援助に頼って生きる男は、大阪から戻ってきた友人と密かに思いを寄せるその妻と再会する。 

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 キネマ旬報ベスト・ワン作品。

 

感想

 主人公は高学歴だが働かず、実家に頼って暮らす男だ。当時は「高等遊民」と言ったが、今ならニートだろうか。ただ彼が言っていたように、働く理由もないのに働く必要はない、というのは確かにその通りではある。

 

 そんな主人公を演じるのは松田優作だ。周囲の冷ややかな視線を淡々と受け流し、叶わぬ恋に思い詰める男を好演している。ただ、今も活躍する役者陣に混じると、早逝した彼が年齢的にどの位置にいるのか、最初はいまいち感覚がつかめず混乱してしまった。

 

 

 彼より上の世代かと思った小林薫は同世代の友人役で、もっと上で親世代かと思っていた草笛光子はちょっと上の義理の姉役だった。49年生まれの松田優作は、生きていたら今は75歳くらいなのかと遠い目をしてしまった。

 

 それからヒロインで友人の妻役の藤谷美和子は、とても明治の女ぽい顔立ちをしている。タイトルバックで浮かび上がる彼女の顔は、本当に明治期の写真のようでしっくり来た。

 

 主人公と友人の妻の関係がしっとりと描かれていく。お互いがお互いの気持ちを分かっていながら何も言わず、二人は互いの家を足繁く行き来する。だが言葉にしなくても、二人の強い想いは言外から濃厚ににじみ出てしまっている。何も語らないだけに逆に淫靡だ。友人は当然気付いているのだろう。久々の再会のときからすでに、主人公と相対するのを避けていたのが印象的だ。

 

 一途な恋を貫く主人公だが、これは彼がニートであることも影響しているだろう。もし彼が社会に出ていたら、次第にその気持ちは薄れていき、やがて新たな恋に出会っていたはずだ。しかし彼は彼女への想いを大事に抱えたまま、世間から離れ閉じこもってしまった。

 

 忙しく働いている他の人から見れば、まだ続いていたの?と呆れてしまう類のものだ。世間からのん気な身分だと思われてしまうのも仕方がない。

 

 それでも恋は恋だ。自分に正直に、打算なしで突き進んだ主人公の誠実な姿には心を打たれた。じっくりと丹念に描かれているので冗長に感じてしまうところはあったが、時おり挿入される奇妙なシーンがいいアクセントになっていた。

恋

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スタッフ/キャスト

監督

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脚本 筒井ともみ

 

原作 それから (角川文庫)

 

出演 松田優作/藤谷美和子/小林薫/美保純/森尾由美/イッセー尾形/羽賀健二/川上麻衣子/草笛光子/風間杜夫*/中村嘉葎雄

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*友情出演

 

音楽    梅林茂

 

それから

それから

  • 松田優作
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それから - Wikipedia

 

 

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