★★★★☆
あらすじ
赤穂藩に拾われるも鬼子と呼ばれ、虐げられて育った男は、大石内蔵助に請われ、主君を死なせて姫を奪った吉良上野介を討とうとする。
「忠臣蔵」をモチーフにした作品。121分。
感想
ハリウッドによる忠臣蔵映画だ。だが内容はかなり改変されている。主君が切腹させられ、浪人となった大石らが仇討するという大雑把なプロットのみを踏襲し、あとは相当自由にやっている。
忠臣蔵の醍醐味は、浪士たちがじっと耐えることで溜まったフラストレーションを、討ち入りで吹き飛ばすカタルシスだ。だがこの映画では主君の切腹後すぐに「その一年後…」となってしまう。この時点でもう駄目だ。じっと耐え忍ぶ伏線がない。
ただこのじっと耐える姿をじっくりやってしまうと二時間では足らなくなるので、そもそも忠臣蔵は映画に向いていない気がする。だいいち47人プラスアルファのメインキャストがいるのだから、描き切れるわけがない。
それから仇敵となる吉良上野介に憎たらしさが足りなかった。裏で陰謀を企ててはいるが、表だけを見るといきなり斬りつけられ、対立しないようにと将軍の命令で赤穂藩の娘と結婚するだけだ。彼が酷いと怒る要素が特にない。彼がいかに嫌な奴かを強調することが大事なのに、それが全然わかっていないようだ。
忠臣蔵ものとしては全然ダメなのだが、麒麟や天狗が登場したり、キツネが化けて魔術を使ったりする世界観が面白い。キツネ役の菊地凛子の妖しさも光っていた。また日本の描写も、ハリウッドのいつもの何かが間違っているレベルを突き抜けて、勝手にイメージを膨らませてやりたい放題やっている。ラストシーンなんて、それどこだよ、と思わず言いたくなるくらい幻想的な映像だった。
もはや日本のようで日本ではない、どこか別の国みたいだ。ここまでやられると文句を言う気もなくなって、逆に感心してしまう。壮大なサムライ・ファンタジーだ。なんとなく「ロード・オブ・ザ・リング」ぽくて、ワクワクする。忠臣蔵なんてどうでもいいので、この線で自由にやって欲しかった。そうするなら忠臣蔵よりも、桃太郎ぐらいの方が上手くいったのかもしれない。
下僕的な身分だった主人公が、主従関係が亡くなった途端、大石内蔵助らにタメ口で接するようになるところなどは非常に欧米的だった。また、西洋人であるキアヌ・リーブスが切腹する姿に、やっぱりこの風習は変だよなと違和感を持ったりもした。当たり前だと思っていた日本の習慣に疑念を抱かせたという意味では、ハリウッドが忠臣蔵をやった甲斐はあったと言えそうだ。
逆に世界の人にとっては、忠臣蔵の何がスゴいの?と思われてしまいそうな伝わらない映画ではある。だが、もはや日本人もよく知らないし、分からないような気もする。
スタッフ/キャスト
監督 カール・リンシュ
脚本 クリス・モーガン/ホセイン・アミニ
出演 キアヌ・リーブス/真田広之/菊地凛子/赤西仁/田中泯/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/出合正幸/中嶋しゅう/ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン/ゲディ・ワタナベ/クライド・クサツ/梶岡潤一/リック・ジェネスト/ニール・フィングルトン/伊川東吾/ロン・ボッティータ(声)