★★★☆☆
あらすじ
高校生の頃に出会った少女との思い出を引きずって生きる男は、ある日気が付くと、彼女が空想していた壁のある街にいた。
感想
過去の思い出に囚われて生きる男が主人公だ。ある日、気が付くと思い出の彼女が話していた想像上の壁のある街にいた。この街は辛い現実から逃避する彼女の本当の姿がある場所とも、望んだ姿がある場所ともいえる。ただそれにしては寂しく陰鬱な世界なのが物悲しい。
この壁の街での話がずっと続くのかと思いきや、主人公はまた現実の世界へと戻ってくる。主人公は田舎に引っ越して新たな生活を始めるが、新生活の場所は壁の街と似ているような、対をなしているような雰囲気がある。彼が働く場所は同じ図書館だし、出会った女性は思い出の彼女とどこか似ていて、共に「アンネの日記」に言及したりしている。
とても曖昧でぼんやりとした形でいろんな物事がリンクしているように感じる不思議な物語だ。物語の中でも言及されているが、マジックリアリズム的だ。
なんとなくこの感覚は、歳を重ねるごとにリアリティを感じるようになるもののような気がする。現実と虚構が入り乱れ、過去と未来、自分と他人、あの世とこの世など、すべてのものの境界が曖昧になっていく。ある意味でそれらの間にある「壁」が不確かに動いているのだろう。
年齢と共に積み重ねられた知識や経験が混濁し、それらへのアクセスがより容易になっていく。昔のことが昨日のことのように感じ、なかったこともあったかのように思えてくる。これが一定のレベルを超えると、「ボケた」と見なされてしまうのかもしれない。
トボけた前任の館長のキャラなどは面白かったが、全体的に語り口が重く、読み進めるのにしんどさがある物語だった。
著者
登場する作品
「クブラ・カーン」 サミュエル・テイラー・コールリッジ
*「緋色の研究」
ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫 NF 190)
THE BEATLES A HARD DAY'S NIGHT ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ![ザ・ビートルズ][Laser Disc]
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