★★★★☆
あらすじ
20世紀初頭、ニューヨークのマンハッタン・ビーチ近郊で働く父に付いて回り、そこで成長した少女は、第2次大戦中に成人し、海軍工廠で働き始める。
感想
ニューヨークのマンハッタン・ビーチで育った若い女を中心に、失踪した父親、それに関与しているらしいマフィアの男、三人それぞれの半生が描かれていく。タイトルから勝手にリゾート感溢れる気楽な物語なのかと想像していたが、予想に反して重厚感たっぷりの読み応えのある小説だった。
世界大恐慌後の不景気で生活に苦しむ父親が、新たな仕事を求めて幼い主人公を連れてマフィアの男に会いに行くところから物語は始まる。そこから、主人公の思春期の出来事や父親の港湾労働組合での怪しげな仕事の話、マフィアの男の裏社会の話など、多岐にわたるエピソードが語られていく。話がどこに向かうのか全く予想の出来ない展開で目が離せない。終盤にはまるで海洋小説のような極限状態が描かれる海難事故まである。
主人公が潜水士を目指すのも意外だったが、登場人物たちのまわりには常に「海」や「水」の気配がある。主人公が障害を抱えた妹を海に連れていくことにこだわる場面もあり、「水」のイメージはこの物語の重要な要素となっていると言えるだろう。隔絶とつながり、生と死、浄化や未知など、相反するものを含めて「水」は様々なもののメタファーだ。そんなことをしそうもなかったマフィアの男も海に潜り、そこで何かの啓示を受けている。
それから、主要人物たちの波乱万丈の物語だけでなく、その他の登場人物たちの人生も垣間見えるようになっている。これが物語に深みを与え、戦時中で今よりも保守的だった時代に、マイノリティである彼らはどのような思いで生きていたのか、そしてその後の時代をどのように過ごしたのだろうかと思いを馳せてしまった。
それぞれに壮絶な体験をした親子が枯れた感じで言葉を交わすラストは、しんみりと深い余韻が残るものだった。
著者
ジェニファー イーガン
登場する作品
「アイ・ウェイク・アップ・スクリーミング(I WAKE UP SCREAMING)」
「セブン・デイズ・リーヴ(Seven Days' Leave)」
「死の船(The Death Ship (English Edition))」