★★★★☆
内容
音楽プロデューサー・作詞家・作曲家である著者が、音楽ライターとして過ごした90年代のブラックミュージックを振り返る。
感想
正直、この著者のことは知らなかったのだが、クインシー・ジョーンズやジェームス・ブラウン、パフ・ダディなどの超大物たちをはじめ、ブラックミュージック界の第一線で活躍するミュージシャンたちと面会し、直接インタビューをしているのがすごい。彼らとのエピソードを読んでいるだけでも面白い。
「成功とはつまり、分かちあうことです。あなたがやっとの思いで沼から陸に這いあがることができても、それはまだ成功と呼べません。陸にあがったら後ろをふり向いて、まだ沼であえいでいる者に手を差し伸べてごらんなさい。そのひとを陸に引きあげたとき、初めてそれを成功と呼ぶのです。」
p136
著者とのインタビューでジェームス・ブラウンが発した言葉に心打たれる。これだけでブラックカルチャーの根底にあるものが分かるような気がする。彼らがやたらといろんな人をフィーチャリングしたり、たくさんの取り巻きを引き連れていたり、ホームタウンを大事にしていたりしているのはこれがあるからなのだろう。
90年代に最前線で活躍したミュージシャンたちの話を読みながら、自分が彼らの事をほとんど知らないことに落ち込んでしまう。せっかく同時代に生きてオンタイムで彼らの新曲を楽しめたはずなのにと。ただその時は別のジャンルの曲をオンタイムで楽しんでいたはずで、すべてを逃すまいと必死になりすぎても音楽を楽しめなくなってしまう。気軽に興味が湧いた時に聴き始めればいい。
そう考えると今は良い時代だ。かつては気になる曲があってもラジオでかかるのを待ったりするしかなかったが、今ならネットを検索すればすぐに聴くことができる。本文中に出てきた気になる曲を、その場で聴きながら読み進めるのはなかなか快適だ。
今の時代は演奏する側にとっても良い時代だろう。ミュージシャンに金持ちの息子が多いのは、たくさんの音源を手に入れることができてそれを吸収できたからだと思うが、今はお金がなくてもたくさんの音源を聴くことが出来る。なのでその点では金持ちのアドバンテージはなくなって、誰でも同じ条件で勝負できるようになったはずだ。
本書ではその他に、著者によるR&BアーティストのCDのライナーノーツの傑作選も収められている。こういうライナーノーツは、業界の重鎮みたいなおじさんが書いているものだと思っていたが、著者のように当時20代の人間が書いていることもあったのかと驚かされた。もしかしたら、自分の持っているCDにも著者がライナーノーツを書いたものがあるのかもしれない。
落ち着いた文章のそれまでと違って、ライナーノーツは妙にノリの軽い文章となっていて意外だった。これはライナーノーツの特徴なのか、時代のせいなのかと色々考えてしまうが、確かにこんなノリのライナーノーツ、あったなあと懐かしくなった。最近読んでないな、ライナーノーツ。
著者
松尾潔
登場する作品
「Pipe Dreams」 1976
Buppies, B-boys, Baps, And Bohos: Notes On Post-soul Black Culture
ポエティック・ジャスティス/愛するということ [Blu-ray]