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「愛は静けさの中に」 1986

愛は静けさの中に (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 片田舎のろう学校に赴任してきた教師は、そこで働く若い聾唖(ろうあ)の女性と出会う。原題は「Children of a Lesser God」。

 

感想

 片田舎のろう学校に赴任してきた主人公が、生徒に熱心に教えようとするのは言葉を発声すること。この世界のことは詳しく知らないが、発声は重要な事とされているのだろうか。そんな疑問で最初はこの主人公のひとりよがりの情熱かと思ったのだが、考えてみれば世の中のほとんどの人は手話など出来ないわけで、そうなるとコミュニケーションを図るために発声が出来るに越したことはないというわけか。やりたくない人には無理強いせず、でもちゃんといつでもウェルカムな態度を示し続ける彼の授業は好感が持てた。

 

 そんな学校で主人公は、かつての卒業生で今は校内の掃除の仕事をする聾唖の若い女性に出会う。心惹かれた主人公は熱心に話しかけるが、過去のつらい経験から固く心を閉ざしている彼女からは冷たい反応しか返ってこない。ただ、初めて二人が教室で向き合った時、彼女はつっけんどんな態度を取りながらも、足の組み方などのしぐさが主人公とシンクロ(ミラーリング)していたので、本心では最初から彼に気があったという事なのだろう。多少の衝突はありながらも割とあっさりデートに応じ、意外と簡単に付き合い始めてしまった。互いに聴くことも話すことも出来ない水の中での愛の告白は、象徴的で良いシーンだった。

 

 

 このままハッピーエンドにすることも出来たのだろうが、そうなると聾唖の女性を健常者の主人公が助けたという一方的な話になってしまう。主人公が、彼女に発声の練習をするようしつこく迫ったり、仕事を辞めさせて自分の家に住まわせたりするのは、悪意はないにせよ、ずいぶんと押しつけがましいなとも思っていたので、ここから彼の意識の問題にフォーカスを当てていったのは上手い展開だった。前半で終わらず、後半の互いに自分を見つめ直す時間があったからこそ、良いエンディングを迎えることが出来たといえる。

 

 聾唖の世界は多くの人にとっては遠い世界のように思えるかもしれないが、言葉の分からない外国に行けば、誰もが似たような体験をするはずだ。会話に入っていけずに黙っていたり、片言の言葉で拙く話していたりすると、頭の悪い人間のよう扱われたりする。発音が変だったり文法が間違っていたりして笑われ、傷ついて心を閉ざしてしまうことがあるのも似ている。そして、逆に日本語の出来ない外国人に対してそういう態度を取ってしまう人もいる。そういう事を思い浮かべながら観ていたら、映画の中のコミュニケーションの問題が全然他人事のように思えなかった。

 

スタッフ/キャスト

監督 ランダ・ヘインズ

 

原作 ちいさき神の,作りし子ら (1981年)

 

出演 ウィリアム・ハート/マーリー・マトリン/パイパー・ローリー/フィリップ・ボスコ

 

愛は静けさの中に (字幕版)

愛は静けさの中に (字幕版)

  • ウィリアム・ハート
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愛は静けさの中に - Wikipedia

 

 

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