BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「秋津温泉」 1962

秋津温泉

★★★☆☆

 

あらすじ

 戦争中に死に場所を求め山奥の秋津温泉にやってきた青年は、旅館の娘である若い女に献身的に介抱される。

 

 舞台は岡山県の奥津温泉がモデル。

 

感想

 山奥の温泉で出会った男女が、逢瀬を重ねる物語だ。女は温泉旅館の娘、男は都会の文学青年で何年かに一度、ふらっとやって来る。

 

 この関係は、男からすれば会いたい時に会いに行ける気楽で楽しいものだろうが、女からすればいつ来るか分からない男を待ち続けるしんどいものだ。そんな関係に甘んじてしまう女のいじましさや物悲しさが描かれているが、それよりも男の身勝手さが気になってしまってあまり集中できないところがあった。男はその間に他の女と結婚し、子どもも生まれている。

 

 

 最初はケタケタとよく笑う明るい性格だった女が、年月を経るごとに表情が乏しくなっていくのが印象的だ。これは無邪気な少女から大人の女へと変貌したことを表わしてもいるが、その時間を未来のない関係に費やしてしまった取り返しのつかなさが伝わってくる。見ている方も、最初の頃は若い二人だからと軽い感じで見ていられたが、年月を重ねるにつれて時間の重みをズシリと感じるようになってくる。17年は長い。

 

 各シーンが冗長で、音楽も雄弁すぎてやや食傷気味になってしまうが、山奥の温泉で繰り広げられる情感あふれる映像世界は美しい。自ら衣装も担当した主演の岡田茉莉子の、バッチリと決めた着物姿の佇まいもグッとくる。河原に寝っ転がって煙草を吹かすシーンなど、印象に残るシーンも多く、彼女の魅力を堪能するための映画と言えるだろう。

 

 ちなみに岡田茉莉子はこの映画が100本目の出演だ。それを記念して自ら企画した映画のため、相当気合が入っていることが窺える。しかしデビューからわずか10年ほどで100本出演達成とは驚かされる。確かに当時はたくさん映画が作られていたので、今のドラマ一話分くらいの感覚で作られていたのかもしれない。10年でドラマ100話分くらいなら、今の人気ある役者も達成しているだろう。

 

 幼い少女の純粋な気持ちのまま、男を愛し続けた女の悲しい物語だ。彼女が大人の判断で、彼との関係を数年できっぱりと終わらせてしまうか、あるいは、別の男と結婚して自分の人生を築きながら割り切って男と密会を重ねるかしていれば、こんな悲哀は生まれなかっただろう。そのどちらも出来なかった彼女の生き様が憐憫の情を誘う。

 

 一緒に死んでほしいと頼み、血を流し、大声で名前を呼ばれるクライマックスのシーンは、出会った頃の二人の姿と立場を変えて対をなしている。それに女が真摯に応えて関係が始まり、逆の立場になった男がはぐらかそうとしたために関係は終わってしまった。男の狡さもあるが、彼が言い訳するように、時を重ねて色々なものを背負ってきてしまったことは大きいだろう。時間は重い。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 吉田喜重

 

原作 秋津温泉

 

出演 岡田茉莉子/長門裕之/山村聡/宇野重吉/東野英治郎/芳村真理/清川虹子/殿山泰司/神山繁/小池朝雄/名古屋章/西村晃/穂積隆信/谷よしの

 

音楽 林光

 

撮影 成島東一郎

 

秋津温泉

秋津温泉

  • 岡田茉莉子
Amazon

秋津温泉 - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com