★★★★☆
あらすじ
決めつけで生徒と接する教師を懲らしめようと画策する小学生たちを描いた表題作他、子どもを主人公にした短編集。
感想
子供たちをメインにした短編集で、読んでいて伝わってくるのは、世間の思い込みに対する反発だ。あの子は頭が悪いからできるわけがないとか、犯罪者の子供だから悪い子に決まっているとか、人はそれぞれ様々な思い込みを抱えて生きている。この短編に出てくる子供たちは、そんな他人の思い込みに抗い、ひっくり返そうと試みている。
子供は、弱い立場だからそんな決めつけや思い込みを押し付けてくる大人に丸め込まれてしまいがちだ。そして、そういうものかと、同じような考え方をするようになってしまう。この短編集は、そうならないように気をつけろよと注意喚起しているようにも、その対抗策を教えてくれているようにも見える。大人でも参考になるが、子どもが早いうちにこれを読んでおくと色々と役に立ちそうな気がする。なんとなく親心を感じる本となっている。
「あ、でも、コーチがほら、イライラを発散させたいとか、感情を抑えきれないで怒鳴りたいだけでしたら、ぜんぜん構わないですからね」
p194
そして単なる道徳的な良い話にするのではなく、時おりちょっと意地の悪い仕返しをするところが人間らしくていい。本当はそんなことはしないほうがいいのだろうが、いつも聖人みたいにはいられない。嫌味の一つぐらいは言いたくなるのが心情だ。「痛いのは集中してないからだぞ」と頭ごなしに選手を怒鳴りつけていたコーチが撃たれた時、集中してれば痛くないらしいですから、と励ます場面も面白かった。
最初の短編はそうでもなかったが、後になるほどどんどんと面白くなっていった。テーマがあって統一感のある短編集なので、その相乗効果が効いてきたというのもあるのだろう。
短編の中では、バスケチームのメンバーだった小学生たちのその後を描いた「アンスポーツマンライク」が良かった。小学生時代の試合の悔しさを大人になってから別の形で晴らす展開で、ラストはスポーツもののような爽快感があった。
そしてこれは善きことが受け継がれていく物語にもなっている。教師の賢明な姿勢が主人公らに影響を与え、大人になった彼らも同じように次の世代に影響を与えている。そうやって名もなき人々の善き行いが広がって、気付かぬうちに少しずつ世界が善なる方向へと変わっていく。そんな様子が感じられるのは感動的だ。
だから最近の政府から大企業へと着実に広がっている日本のモラルの崩壊ぶりは、この物語とは逆の方向に世界が変わっていっていることを示しているのだろうなと危惧してしまう。
子供が大人の真似をするように、大人も組織のトップの真似をするようになる。だから真似されるような立場にいる者は、何よりもまずまともなモラルを持ち合わせていなければならない。自分がそんな大人になってしまっていないか、我が身を振り返ってしまう短編集でもあった。
著者
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