★★★★☆
あらすじ
浮気しては何度もフラれる男の話。短編集。
感想
9つの短編が収められている。そのほとんどは、一人のドミニカ出身の男がメインで描かれ、兄は死期が迫る病身の身、母親は働きづくめという設定となっている。ただ最初はそれに全く気付かず、3~4つ目くらいの短編を読んでいるときに不意に登場人物の名や家族構成が同じだということに気づき、ようやく把握した。
さらに言えば、このメインで描かれる男は、この著者の前作「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」に出てくる人物なのだが、それについては巻末の訳者あとがきを読んで、そうだったのかと初めて知った次第だ。
短編のほとんどは、主人公がその時につき合っている女性と別れてしまうというストーリーだ。それだけ聞くとなんだか悲しいのだが、その原因は全部主人公の浮気で、しかも1回や2回ではなく50回もしているということもある。それでいて別れにジタバタするのだから、それなら最初から浮気なんかしなけりゃいいのにと思ってしまう。でもそうしてしまう背景には、様々な要因がありそうなことが窺える。まず考えられるのは、ドミニカという国なのかその属する地域なのかの特色と言えそうな、女性に手を出してこそ男、みたいな価値観だ。彼の友人たちも同じように浮気をしている。
そして彼独自の個人的な要因として、死期が迫る兄の存在が大きく影響しているように思う。この兄は主人公よりもずいぶんとモテて、病気が進行してガリガリになった後も、何人もの女性が周囲にいたくらいだ。主人公はそんな兄を真似ようと思っていたところもあるだろうし、また、たとえどんなに愛し合ったところでどちらかが死んでしまえば結局別れることになるという事に、まだ若いうちに気づいてしまって空虚さを覚えたという事もあるかもしれない。
どんなに愛したところでいつかは訪れる別れを恐れて、それに怯えて待つくらいならいっそ、自ら別れの原因を作ってしまおうという深層心理が働いていたようにも感じられる。とはいえそんな言い訳を必死にしたところで、女性からしたら「知らんがな」でしかないだろうが。
そんな主人公の様々な別れのエピソードだけではなく、家族の話、同胞たちがアメリカで苦労する様子なども描かれていく。その中では、同居人がたくさんいるような貧しい環境で暮らす女性たちが、それでも子供を作っているのが印象的だった。これは貧しさの連鎖を引き起こす行為なのかもしれないが、それでもそうなった以上はそれを受け入れて当たり前のこととして子供を産む姿はたくましい。これも国民性なのか、宗教的なものなのかは分からないが。
著者
ジュノ・ディアス
登場する作品
Fly Tetas - Loco Pinga|Jose Chingas [Explicit]
「ああバビロン(Alas, Babylon)」
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