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「海の野郎ども」 1957

海の野郎ども

★★★☆☆

 

あらすじ

 スクラップを山積みにして東京港にやってきた貨物船の乗組員らと、彼らを待ち受ける港の人々。

 

感想

 外国から日本に到着したある貨物船を舞台にした物語だ。序盤は税関手続きを行う船長、久々の下船に浮かれる乗組員たち、彼らを待ち受ける怪しげな客引きたち、そして荷物の積み下ろしに黙々と取り掛かる作業員たちなどの姿が、ドキュメンタリータッチで淡々と描かれていく。

 

 そんな中でこっそりと船に乗り込み、乗員たちと裏取引を行い、女を斡旋する闇業者の姿は生々しかった。上陸した乗組員たちを強引に車に押し込んで連れ去ろうとする客引きらと合わせて、まるで獲物に群がる飢えた獣たちのようだった。その貪欲さに圧倒される。

 

 

 石原裕次郎演じる主人公は、そんな業者たちを尻目に、荷役作業の現場で労働者たちを取り仕切る男だ。彼の会社のトップの男がゴリゴリの入れ墨をしていて、つまりはそういうことなのだなと色々察してしまうが、昔はこの荷役作業のように人手がたくさん必要な仕事は、だいたいこんな感じの人たちが取り仕切っていたのだろう。

 

 主人公は、船内で起きた対立に巻き込まれていくのだが、この船長と乗組員たちがなぜ争っているのかがよく分からなかった。船長らの密売に乗組員らが抗議したようだが、船長らは皆で利益を分配すると提案しているのだから特に彼らの不利益になるようなことはなく、どうしてそこまで激怒しているのだろうと戸惑ってしまった。

 

 さらにその抗議が乗組員たちの愛国心と民族としての誇りを刺激したようで、気持ちが高ぶったのか、踊り狂い始めてますます意味が分からない。あまりにも大げさで劇的な描き方に唖然としてしまった。第二次大戦から10年経った当時の世界の気分がそんな感じだったのかもしれないが、飛躍がすごい。

 

 主人公は自分の仕事を優先し、乗組員らの反乱を冷めた目で見つめ、ボスに指示されるままにその鎮圧にも関与する。だが乗組員らの激しい怒りに真摯に向き合ったことで、彼らを理解して連帯を示すようになっていく。主人公がヒューマニズムに目覚めたと感動したいところだが、残念ながら他人に簡単に影響されて意見をコロコロと変えてしまう軽薄なだけの男にしか見えなかった。

 

 そもそも主人公は、ボスが指示した荷主の貨物の横領には応じているわけだから、元々曲がったことが大嫌いな、聞き分けの悪い正義漢ではない。今回はボスの企みに気付けず、勝手に勘違いして大騒ぎしてしまっただけだ。その間の抜けた鈍感さがまたカッコ悪い。

 

 いろんな国籍や人種の男たちが乗り合わせる国際貨物船をひとつの地球のように見立て、国際社会の中で日本人はどうあるべきか、観客それぞれが考えてしまうような映画にしたかったのだろうなとは想像できるが、頭でっかちで上手く形に出来ずに終わってしまった印象だ。

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スタッフ/キャスト

監督/脚本 新藤兼人

 

出演 石原裕次郎/松本染升/殿山泰司/西村晃/梅野泰靖/菅井一郎/安井昌二

 

音楽 伊福部昭

 

海の野郎ども

海の野郎ども

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海の野郎ども - Wikipedia

 

 

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