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「グッバイ、コロンバス」 1959

グッバイ、コロンバス

★★★★☆

 

あらすじ

 プールで知り合った女子大生と付き合い始めた図書館員の若者。別邦題は「さよならコロンバス」。

 

感想

 漫然と日々を過ごす図書館員の主人公が、裕福な会社社長の娘と付き合い始める物語だ。やがて住む世界の違いが二人に影響を与えていく。ただ、最初からそれは分かっていたはずなのに、主人公がやけに積極的だったのは意外な感じがした。彼女と初めてプールで言葉を交わしたその日の夜にはもう、電話をかけてデートに誘っている。心の片隅で気にはなっていたが、それよりも恋に浮かれる気持ちが勝ったということだろうか。

 

 そして二人は付きあい始める。だが楽しく過ごしながらも互いに将来の事には踏み込もうとしなかったのが印象的だった。彼女は主人公に、遠回しに図書館員の仕事をどう思っているかを尋ねたりもしているが、自分が気になるのではなく家族が気にしているから一応、といった感じだった。

 

 

 彼女はそういうことに無頓着な様子だったが、主人公は意識的だった。どこかでこの関係は続かないものだと思い込んでいる節が感じられた。実の両親が主人公を置いて遠くに引っ越してしまったことも影響しているのかもしれない。愛する人たちにいつか置き去りにされてしまうような気がして、それで傷つくことがないようにあらかじめ予防線を張っているかのようだった。

 

 やがて主人公は彼女の両親をはじめ家族とも親しく付きあようになるのだが、両親の一見心が広いようでいて、実は無関心な態度はなかなか理解しがたかった。娘の恋人を自宅に2週間も泊めるなんて結構すごいことだと思うが、アメリカでは普通なのだろうか。それで間違いが起きないと思っているのもなかなかだ。世代の違う彼らには、結婚前にそんなことはあり得ないと思い込んでしまっていたのかもしれない。

 

 しかし主人公らが別の意味で間違いが起きないようにと所持していたもので、両親が考える間違いが起きたことがバレてしまうとは皮肉だった。主人公は彼女がわざとバレるように仕向けたのではと疑っていたが、彼女は無関心な両親に対して無意識のうちに自分をアピールしようとしていたのかもしれない。愛される自信のない二人は、ある意味で似た者同士だったと言える。

 

 図書館に通っていた貧しい黒人少年を気にかけながらも、来なくなるとどうせ叶わぬ夢なら見ない方がいいと自分を納得させていた主人公だから、自身の恋愛に対しても同じようなことを思っていたのだろう。主人公が間違いがないようにと彼女に持たせていたものも、深層心理では結局、自分を守るための予防線だったはずだ。あらかじめ決められていたかのような、必然の結末が訪れる。そしていつか、学生時代を振り返るような感覚で、そんな時代もあったのだなと懐かしく思い出すはずだ。

 

著者

フィリップ・ロス

 

フィリップ・ロス - Wikipedia

 

 

登場する作品

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

「エクスタシー(Ecstasy [DVD] [Import])」

「パパ・ママ奮闘記(Ma and Pa Kettle in the City)」

 

 

関連する作品

映画化作品

さよならコロンバス [DVD]

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