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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「BUTTER」 2017

BUTTER

★★★★☆

 

あらすじ

 容姿端麗とはいえないながら男たちを手玉に取り、殺害した容疑で逮捕された女。そんな世間の注目を集める女を取材することになった女性記者。

 

感想

 実際にあった事件をモデルにした小説。男を騙して金を奪う女と言えば、誰もが美人を想像していたのに、実際はそれとはかけ離れていて皆が驚いた、という事件だった。そんな女に騙されていた男たちはどんな奴だ?とか、容姿じゃなかったら何が秀でていたのか?とか、下世話な関心も集めて、いろいろと世間をざわつかせた。

首都圏連続不審死事件 - Wikipedia

 

 そんな世間の戸惑いが小説にも反映されているが、その中でも女性たちが彼女に寄せた関心が大きく取り上げられている。世間の男は理想の女性像を語り、女はそれに合致するように日々努力しているのに、全然合致しない女性が男にモテまくっていたというのはどういうことだ?みたいな戸惑いや動揺。

 

 主人公の女性記者が取材のために拘置所で被告人と何度も面会することで、彼女の生い立ちや事件の様子が次第に明らかにされていく。ただ、それよりも取材する主人公の心境の変化がメインに描かれている。世間の常識に縛られていた主人公が、彼女に魅了されてしまう前半が印象的だった。

 

 

 女性に限らずだが、多くの人は世間が定めた基準に従って生きている。太ってはいけない、だらしなく生きてはいけない、努力を怠ってはいけない、と。個人的には、みんなこんな感じなのか、自分に厳しいなと思ってしまったのだが、自分は自分で別の世間の基準に従ってしまっているのだろう。皆が自分を厳しく律しているから、その分、そうじゃない人を叩きたくなるのかもしれない。

 

 物語の中で、主人公の価値観はあちこちに揺れる。一度は被告に心酔しかけながらも、やがては冷めた視線になっていく。この辺りの不安定さがとてもリアルだ。何にも縛られず自由に見える人でも、その人はその人で独自の基準に従っているだけで、時にはそれで苦しんでいたりする。

 

こうしている今も基準は上がり続け、評価はどんどん先鋭化する。この不毛なジャッジメントから自由になるためには、どんなに怖くて不安でも、誰かから笑われるのではないかと何度も後ろを振り返ってしまっても、自分で自分を認めるしかないのだ。

p540

 

 自由とは簡単なものではない。その模索する感じ、明確な答えは用意されておらず、こんな風なのかなと曖昧なままにしているのが、妙にしっくりと来た。

 

 物語は、被告と主人公のちょっとした心理戦や、突然主人公の親友が意外な行動をとり出すサスペンス、たくさんの料理が登場するグルメ描写と、盛りだくさんな内容で読みごたえがある内容となっている。

 

著者

柚木麻子

 

BUTTER

BUTTER

  • 作者:柚木麻子
  • 発売日: 2017/06/30
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

ちびくろ・さんぼ

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麗しのサブリナ (字幕版)

マイ・フェア・レディ スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

パリの恋人 (字幕版)

ローマの休日(字幕版) 

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銀河鉄道の夜 (角川文庫)

奇子 1

 

 

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