BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「気狂いピエロ」 1962

気狂いピエロ (新潮文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 なかなか仕事が見つからず、妻や子供に対して肩身が狭い思いをしていた失業中の男は、ある日ベビーシッターの若い女と関係を持つが事件に巻き込まれてしまう。原題は「Obsession」。

 

感想

 一夜の浮気ですべての人生が狂ってしまった男の物語だ。だが運が悪かったとか、魔が差したとかではなく、自らその道を選んだように見えた。定職が見つからず、妻には拒絶され、子供たちには相手にされない中年男にとって、この延長線上にある人生にはもはや何の魅力もなかったのだろう。

 

 人生に絶望を感じていた主人公の前に現れたのが、なにを考えているのか分からない気ままで美しい若い女だ。吸い込まれるように彼女と関係を持ってしまったことから、主人公は事件に巻き込まれていく。最初はまだ、その場で警察を呼んでいればただの事件関係者の一人でしかなかったのに、彼は彼女と一緒に逃げることで事件の当事者となることを選んだ。この時点でもはや彼女に人生を捧げると決めたようなものだ。

 

 

 その後は華麗なる逃亡生活を送ったり、裏の世界の実力者に見つかって半殺しの目に遭ったり、大金を狙う犯罪計画に加わったりと、まさに犯罪小説らしさ溢れる物語が繰り広げられる。しがない中年男かと思っていた主人公が意外とやり手で機転が利き、賢く立ち振る舞うのが面白い。彼はもともと売れない脚本家だったので、その手の知識をそれなりに持っており、創造力もある男だったのだろう。

 

 これらの間、主人公は何度も女に裏切られるのだが、それでも彼女を追い続ける。彼女が彼を愛していないことを知っており、彼自身もまた彼女を愛していないことが分かっているにも関わらずだ。彼女の魅力にはどうしても抗えない。まさにファム・ファタール、運命の女だ。

ファム・ファタール - Wikipedia

 

 それなりの年齢に達した男が、若い女に振り回されて人生をめちゃくちゃにされたい、という願望を持つのはなんなのだろう。どんなに燃えてもやがては落ち着いてしまう恋愛ではなく、限界を超えて燃え上がり、そのまま燃え尽きてしまいたいと思うのかもしれない。馬鹿らしいと思いながらも、心のどこかでは分からなくもないと感じている自分がいる。こういった感覚は女性にもあるのだろうか?

 

 ヌーヴェルヴァーグの代表作として知られるジャン=リュック・ゴダールの映画「気狂いピエロ」の原作小説だ。ずっとタイトルの読みは「きぐるいピエロ」だと思っていたのだが、「きちがいピエロ」と読むことを初めて知った。まだ映画は見ていないのでぜひ見たい。

 

著者

ライオネル・ホワイト

 

 

 

登場する作品

*翻訳では「マイ・フェア・レディ」

bookcites.hatenadiary.com

カサブランカ (字幕版)

 

 

関連する作品

映画化作品

気狂いピエロ

気狂いピエロ

  • アンナ・カリーナ
Amazon

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com