★★★★☆
あらすじ
政治が腐敗し、テロがはびこるフジモリ政権下のペルーで、スキャンダル写真で世間を騒がすことになった富豪。
感想
全然知らなかったが、ペルーでフジモリ氏が大統領に当選した時、次点だったのは、後にノーベル文学賞も受賞したこの本の著者だったのか。そんな彼が、フジモリ政権の腐敗を題材にして、小説を書いているというのは面白い。しかも大統領や他の何人かの登場人物は実名。きっと自分が大統領になっていたら、もっと素晴らしい未来になっていた、という強い思いがあるのだろう。
タブロイド雑誌に富豪のスキャンダル写真が掲載された事により起きた出来事が描かれていく。章ごとに異なる人物の視線から物語が語られていくのだが、佳境となる章では全員が登場して、数行ごとに目まぐるしく場面を切り替えながら展開する。一斉に皆が喚きたてているような感じなのだが、それでも内容は理解できて、なんだかマルチタスクをこなしているような不思議な感覚になった。
たくさんの人物が登場するが、中心となるのはスキャンダル写真を撮られた富豪の男とそれを掲載したタブロイド雑誌の女。政治の腐敗や貧富の差などの社会問題を浮き彫りにする物語なのだが、中心となる二人がこの事件をきっかけに何かに目覚めた物語として読むことも出来る。一方は真のジャーナリズムに、一方は開放的な性的嗜好に。
読んでいるとどうしても今の日本の状況を連想してしまうのだが、この小説の結末のような事は日本では起きないのだろうなと、暗鬱たる気分になってしまった。
著者
マリオ・バルガス・リョサ
登場する作品
「El Plebeyo(エル・プレベジョ)」
「エルメリンダ」 フェリペ・ピングロ
「農民の祈り」 フェリペ・ピングロ
「ロサ・ルス」 フェリペ・ピングロ
「界隈に戻って」 フェリペ・ピングロ
「アメリア」 フェリペ・ピングロ