★★★☆☆
あらすじ
スキャンした役者のデータを自在に操って映画を作る時代がやって来て、かつての人気女優は自身のデータをスキャンさせる契約を結ぶかどうかで悩む。原題は「The Congress」。
感想
人気俳優のスキャンデータを自在に操って映画を作る近未来が舞台だ。確かにデータだけであればわがままも文句も言わないし、24時間いつでも働かせることが出来るしで、映画スタジオにとっては好都合で便利そうだ。でもそこまでの技術があるのなら、別に実在の人物のデータを使わずに、架空の人物をゼロから作り上げてしまえばいいのに、と思ってしまった。そうすれば余計な契約料すら払う必要がない。
これ以外にも、生涯契約のような大型なものではなく、映画ごとに契約を結べば役者側の精神的な負担も少なくて済むのに、とか色々思いついてしまって、設定にやや難があるように思わなくもない。
だが役者をやっている人たちには色々と考えさせられる映画なのかもしれない。無声映画からトーキーに、モノクロからカラーへと、映画の歴史の中には様々なターニングポイントがあった。そのような変化がこの先数年のうちに起きたとしてもおかしくはない。その時にどのような姿勢で臨むかは、常に考えておかなければならない事だろう。そしてこれは何も映画界に限った話ではなく、どの世界でも言えることだ。
映画はそれを示唆するかのように、映画界の話からアイデンティティーの問題を描いたものへと変化していく。そして途中から完全にアニメーションに切り替わる演出なのが面白い。このアニメが、手塚治虫ぽいというか、手塚治虫が影響を受けたアメリカのアニメぽい、どこかレトロな雰囲気の絵柄で何とも言えず味がある。それでいてサイケな表現だったり、大人な表現もあったりして、自分が疎いだけかもしれないが、案外アメリカのアニメもいろいろ出来るのだなと感心した。
ちなみに主演のロビン・ライトが本人役の実名で出ているように、実在の人物や会社の名前がそのまま映画の中で使われている。アニメーション編の中には、スターや歴史上の人物をうかがわせるようなキャラクターが多数登場していて、それを見ているだけでも面白かった。契約交渉シーンの話の中ではキアヌ・リーヴスの名前が挙がり、確かに彼なら真っ先に契約を結びそうだと思わず笑ってしまった。
過酷な現実を生きるくらいなら、目を閉じて惚けて生きる方がいいのでは?という割とよくあるテーマのSF映画ではある。ただそれを単なるディストピアとして描かずに、それも選択肢の一つだよねと必ずしも否定的に描いていないのが印象的だった。だからと言って簡単には割り切れない、自分を偽ることは難しい、というのも理解できた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 アリ・フォルマン
製作/出演 ロビン・ライト
出演 ハーヴェイ・カイテル/ポール・ジアマッティ/コディ・スミット=マクフィー/ジョン・ハム/ダニー・ヒューストン/サミ・ゲイル