★★★★☆
あらすじ
独ソ戦争でドイツに村を焼かれ、親を殺された少女は復讐を誓い、女だけの狙撃専門小隊の一員となって戦地に向かう。
本屋大賞受賞作、直木賞候補作。
感想
女だけのスナイパー集団という設定は、日本のアニメにいかにもありそうで、美少女キャラたちが面白おかしく戦争ごっこをするようなストーリーを想像してしまうが、この小説はリアルな戦争ものだ。1941年に始まった独ソ戦を舞台に、実際に存在した女性狙撃兵たちを題材としている。
戦争で居場所を失った主人公が、同じような境遇の女たちと共に訓練し、やがて戦場に出ていく。戦地に立ってしまえば、女だろうと関係なく、当然悲惨で過酷な現実と向き合うことになる。そんな状況の中で戸惑い、時に悩み、時に憤りを覚えながらも兵士として成長していく主人公の姿がリアルに描かれる。敵との攻防もスリリングだ。
そんな中で印象的だったのはソ連人の主人公が、ソ連軍の歩兵たちと対立したり、ドイツ兵と関係を持つソ連人女性を軽蔑したり、ドイツの女性を暴行するソ連の男たちに嫌悪感を示したりと、同じソ連人に対して反発を示すシーンが多かったことだ。逆に敵国のドイツ人の狙撃兵に連帯を感じている場面もある。
だがこれは考えてみれば当たり前で、人間には様々な属性があってその時々の状況に応じた属性で行動している。ある属性が同じだったとしても、他の属性が違うことで対立してしまうことはある。だから同じソ連人だからと何でも擁護できるわけではないし、敵のドイツ人だから全部ダメとはならない。そもそも皆それぞれたくさんの属性を持っているのに、その中のたった一つ、国籍だけで敵と味方に分れて殺し合いをしようとしていること自体が間違っているのだろう。
何か一つの基準で敵か味方かを判断するのはシンプルで分かりやすく、今でもそういう単純な考え方をする人は多い。だが、シンプルで分かりやすいことが必ずしも良いことだとは限らない。この考え方のせいで、少しの努力で分かり合えるはずの相手とも永遠に断絶したままになってしまうことだってあるはずだ。
互いに助け合う女同士の友情や反目しているはずの相手との間に築かれる絆など、シスターフッド的な熱い展開もあり、予期せぬ流れで復讐が果たされるクライマックスは意外性があって面白かった。色々な要素が詰め込まれた戦争小説だ。堪能した。
著者
逢坂冬馬
登場する作品