★★★★☆
あらすじ
お気に入りの家具、お気に入りのワードローブに囲まれて何不自由なく暮らすも、不眠症に苦しむようなってしまった男は、ある日、見るからに危険そうな男と出会って意気投合する。
感想
何不自由のない快適な生活を手に入れたにもかかわらず、どこか満ち足りない思いを抱えて不眠症に苦しむ男が主人公だ。悩んだり心配したりするのが嫌だから努力してきたのに、いざ安心を手に入れたら、それはそれで生きてる感じがしないからイヤ、と言っているわけで、なんて人間は身勝手な生き物なのだと思ってしまう。だがその気持ちは痛いほどよく分かる。
生きてる実感を得るために彼がまずしたのは、死期が迫った人たちとの交流だ。他人の「死」を覗き見ることで自身の「生」を実感しようとしている。理に適ってはいるが、自身も死期が近いと偽って彼らに近づくなんて人としてどうなのだ?というのはある。主人公は同様のことをする女が現れたことで常に自身を省みざるを得なくなり、後ろめたさを意識するようになって純粋に楽しめなくなってしまった。
その次に彼が始めたのは殴り合いだ。それがいわゆるファイト・クラブになっていく。自らを危険にさらすことで生きてる実感が湧いてくるだろうことは想像がつく。しかも相手を倒すことよりも殴られることに重きをおいているのが興味深い。普通は格闘技のように強さを追求しそうなものだが、そうはならない。同意した者同士でやっているだけなら問題がないような気がする。
そんな世界に主人公を引き込み、相棒的存在になる男を演じるのは、ブラッド・ピットだ。スターとして最も勢いがあった時で、キレッキレのワイルドぶりがカッコいい。オーラたっぷりで、何をしでかすか分からない危険でヤバいキャラクターに説得力を与えている。この映画におけるの彼の存在は大きい。
主人公らは生きている実感を得られるようになったのと同時に、自己肯定感を強めていく。周囲の家畜のように従順に社会に飼いならされている人たちを見て、優越感を感じるようになったのだろう。やがて自分たちの理想の社会を作ろうと暴走を始めてしまった。
彼らの組織は、続々と人が集まって主人公が驚くほど巨大化していたが、現代は生命の危機に瀕することはなくなったが、その代わりに満たされない気持ちを感じたまま生きることになりがちな社会となっているのだろう。だから人々は生きがいを求めて集い、推し活だのなんだのに夢中になっている。そこから時に彼らのように暴走を始めてしまう集団が出てくる。生きがいは大事だが、この映画に憧れ、その真似事をしようなんて考えるのは、中学二年生までにして欲しいものだ。
映画『ファイト・クラブ』が「インセル」から神格視されたのは「私の責任ではない」とデヴィッド・フィンチャー監督 | THE RIVER
終盤には驚きの事実が明らかになる。今回見るのは二度目だったのでそれを踏まえて見ていたのだが、二人に付きまとっていた女性の反応に注意していれば気付けるようになっている。こういう発見があるから同じ映画を何度も見るのも楽しい。このタイプの映画は大抵モヤモヤしてしまうものだが、ちゃんと最後まで面白いのが素晴らしい。
そしてラストシーンがばっちりとキマっている。爆発するビル群を前に二人並んだシルエット、そして流れ出すPixiesの「Where Is My Mind」。主人公が下着一枚だったのもこのシーンのための計算だったのかと感心してしまった。バッドエンドなのかハッピーエンドなのか、どうとも取れるラストだったが気分は上がった。
この映画は、生きてる実感を求めた主人公が最後にたどり着いたのは「愛」だった、というラブストーリーと見ることが出来る。恋愛は生きてる実感を与えてくれるものだ。そんなの最初に気付けよという話だが、心の平穏を乱すからと主人公は終始避けようとしていたように見えた。
スタッフ/キャスト
監督 デヴィッド・フィンチャー
製作 アート・リンソン/セアン・チャフィン/ロス・グレイソン・ベル
出演 エドワード・ノートン
ヘレナ・ボナム=カーター/ミート・ローフ/ジャレッド・レト/ホルト・マッカラニー/ザック・グルニエ/アイオン・ベイリー
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