★★★☆☆
内容
かつてIT企業のCEOとしてITバブル崩壊の中を生き抜き、現在はベンチャーキャピタルの共同創業者として活躍する著者の、ベンチャー企業のCEOに対するアドバイス。
感想
序盤は著者のCEO時代の体験談が綴られる。そこには予想していた華々しい成功物語ではなく、 次々と襲い来る危機をなんとか切り抜けようとする、読んでいるだけで冷や汗が出てくるような物語が語られている。正直、こんな感じだとは思わなかった。IT系の企業に対しては、どこか軽薄なイメージを持ってしまいがちだが、当然そんなわけはないということか。
著者自身も、華やかなことが何もなく、ただただこんなに苦しい場面ばかりなのは、自分がCEOとしてふさわしくないからだと悩んでいたというのは面白い。確かに成功しているIT企業のCEOはスーパースター的に扱われていることが多い。だけど、本当は著者同様の苦しい状況を乗り越えてきたはずだ。どんな話も成功した後に語られることなので、他の成功者同様に、自分をよりよく見せるために華やかな成功物語を語ってもおかしくないのに、素直に困難の連続だったと告白する著者には誠実さが感じられる。
著者の体験談の後は、その体験から学んだことが紹介される。彼なりのCEO論が語られていく。いきなり「人を正しく解雇する方法」から始まって面食らうが、会社を生き残らせるためには起こり得る出来事で、そういう困難に立ち向かうのがCEOだ、という著者の姿勢が見て取れる。
私の経歴の中で早くに学んだ教訓は、大企業でプロジェクト全体が遅れる原因は、必ずひとりの人間に帰着するということだった。
p75
著者が語る体験談は、なるほどと思わせてくれる内容のものばかり。そんな体験から得られた教訓を、そうなる理由やどうするべきかをわかり易く丁寧に説明している。著者は元インテルCEOで「ハイ・アウトプット・マネージメント」の著者、アンドリュー・S・グローブをリスペクトしているようだが、確かに教科書のように理路整然とした内容は、彼の影響を感じる。
人事や企業文化、経営のマネジメント方法、会社が成長するにつれ生じる問題など、経験の少ないCEOには大いに参考となる事柄が沢山語られる。だが正直、読んでいるとCEOなんてなりたくないなと思うようになってしまった。CEOは、日々いくつもの決断をし、時々は大きな決断もしなければならないが、その下した決断は、正しかったかどうかさえ分からない場合のほうが多い。過去の決断が正解だったかもわからないのに、それでも次々と目の前の事柄に対して決断を下していかなければいけないなんて、頭がおかしくなりそうだ。
CEOとして成功するには、著者が言うように「苦闘を愛せ」るかどうかにかかっているんだろうなと思った。
著者
ベン・ホロウィッツ
登場する作品
「ショート・アイズ」(映画)
Yertle the Turtle and Other Stories