★★★☆☆
あらすじ
誕生日のある時間だけ互いのいる場所に瞬間移動する双子の物語。
感想
幼い頃から両親に虐待を受けて育った双子。なかなかしんどい状況だが、それでもあっけらからんとその事実を受け入れている主人公たちの態度には、何とも言えない切なさがある。暴力をふるう義父に抵抗するのではなく、なるべく接触を減らすことで何とかやり過ごそうとしている。子供の頃ならいざ知らず、10代後半にでもなれば二人掛かりで立ち向かえば勝てるだろうにと思ってしまうのだが、こういうのはきっと強さではなく頭のイカれ具合の方がものをいうのだろう。このまま続けるとヤバいなと躊躇してしまわない人間が圧倒的に強い。覚悟があるとも、想像力がないとも言えるが。
核の部分は陰湿だが、表層的には出来る限り、穏やかに。どうせ誰も人の核の部分など気にかけないのだ。
p123
そんな環境で育った二人だから、こんな風な「核」を隠し持つような、道徳心の強い善良な人間でないのも仕方がないのかもしれない。いじめの現場を目撃しても、気の毒だなどと同情なんてしない。でもこんな風に体裁を保つことは誰もが自然にやっていることで、そんな内心をわざわざ分析して言葉にしてしまっている時点で、既に主人公たちは道徳心の強い善良な人間なのだと言えるのかもしれない。主人公たちというよりも著者が、という事なのかもしれないが。
その二人が天から与えられた特殊能力は、誕生日のある特定の時間だけ二人の位置が入れ替わるというもの。あまり使い道がなさそうな、下手したらありがた迷惑なだけの能力とも言えそうなのだが、それを何とか活用した彼らの活躍が描かれていく。過去の彼らのそんな活躍ぶりが語られ、それが現在の状況につながっていくというストーリ展開はよく出来ているが、割と早い段階でそれには気づいてしまった。
ラストは、主人公のついていた嘘に一旦は明るい気持ちになれるのだが、その後、結局は苦みばしった結末が待ち受けていた。でもその語り口にはどこか爽やかさが感じられ、世の中そんなに都合よく物事が進む事なんてまずないけど、これぐらいの奇跡は起きても良いですよね?と問いかけられているようだった。
著者
登場する作品