★★☆☆☆
あらすじ
熱を出し、おかしな挙動を見せていた娘が破傷風にかかっていることが判明し、入院させるも悪化していくその病状に疲弊していく夫婦。
感想
破傷風にかかった娘とその看病で疲弊する両親の姿が描かれる。両親が異変に気付いたのは、娘が口を開けようとしなくなったことだった。だが子供が大人の気を引こうと不審な行動を取るのはままあることなので、それだけで判断するのは難しい。
現に最初は両親もあまり気にしておらず、叱りつけてさえいた。大抵の場合はそれで何事もなく過ぎていくのだろうが、今回のようにそれが本当に病気の症状だった場合はとんでもないことになる。娘が苦しんでいるのに気付かないどころか、怒ったりしていたなんて、一生後悔することになるだろう。だがそうなるかどうかは運でしかない。そう考えると恐ろしい。
娘はさらに歩き方までおかしくなる。両親がどんなに問いただしても、彼女が平気なふりを装っていたのは不思議だったが、もしかしたらそれは本能から来るものだったのかもしれない。野生の動物は、体が弱く無事に成長しなさそうな子供の育児を放棄する。だから彼女も、無意識のうちに両親に見捨てられるのではと不安を感じ、自分は大丈夫だと必死にアピールしていたのだろう。
やがて症状が悪化して、病院で破傷風であることが判明し、娘は入院することになる。外の僅かな刺激に反応して痙攣を引き起こす様子は壮絶で、見ているだけで辛かった。そして何度も舌を噛み、その度に血まみれになる様子は、並のホラー映画よりも怖かった。
両親はそんな娘の様子を見て疲弊し、それと同時に自分も破傷風になるのではと怯えるようになる。娘のことで頭がいっぱいだったが、ふと冷静になって自分の事を考えた途端に、急に不安が襲い掛かって来たのだろう。その気持ちはよく分かる。それらが両親の精神を徐々に蝕んでいく。
ただ、そんな子供と両親の姿を延々と見せられ続けるのはかなりしんどかった。大したドラマもなく、ただ病状の変化を見守るしかない。もしかしたらホラー的に楽しませようとしていたのかもしれないが、実際にある病気の実際にある症状を見せられて、怖がって面白がるような気持ちにはさすがになれない。
破傷風が恐ろしいことは実感できたが、どうせならその知見が深まるような情報がもっと欲しかった。難病の少女の治療の様子を見せられるだけの、嫌な感じに怖い映画だった。
スタッフ/キャスト
監督/製作 野村芳太郎
脚本 井手雅人
出演 渡瀬恒彦/十朱幸代/若命真裕子/中野良子/宇野重吉/北林谷栄/梅野泰靖/蟹江敬三/中原早苗/谷よしの
音楽 芥川也寸志