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「初恋〜お父さん、チビがいなくなりました」 2019

初恋〜お父さん、チビがいなくなりました

★★★☆☆

 

あらすじ

 無口な夫との老後の生活に不満を感じながら暮らしていた妻は、飼っていた猫が行方不明となって落ち込む。104分。

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感想

 夫に抱いていた不満が、猫の失踪を機に限界に達した妻が主人公だ。家ではまともに会話をしてもらえず、外で会っても無視されたら腹が立つのも当たり前だ。妻が夫に敬語で話しかけるような昔ながらの夫婦で、夫は亭主関白のつもりなのだろう。

 

 主人公が娘に語っていたように、一人じゃないのに相手にされず、まるで一人のように暮らしていたら、本当に一人でいるよりも孤独は強く感じるものだ。残り少ない人生を、いなくなった猫の心配も一緒にしてくれないような男と暮らすぐらいなら、いっそのこと本当に一人になってしまった方がましだと考えたとしても不思議ではない。

 

 

 子供たちは、もし離婚したら主人公はやっていけないだろうと心配していたが、金銭的な問題がクリアできるなら彼女は普通に暮らしていけるはずだ。むしろ心配するべきは、どう考えても父親の方だろう。主人公がいなければ家事も何も出来ない。彼の場合は家政婦を雇えば解決するはずだが、それはつまり、主人公は家政婦をやっていただけということになる。

 

 思わぬ妻からの離婚話に慌てた夫が改心して一件落着し、それどころか逆に一途な恋愛話に心ほっこり、となる流れだったが、正直なところ共感は出来なかった。妻をぞんざいに扱う夫が悪いのは当然だが、主人公も不満があるのならちゃんとその都度表明しておくべきだった。

 

 不満をその都度口にしていたら、分かり合えずにさっさと離婚して新たな人生を送るなり、あるいは互いに歩み寄って夫婦円満で幸福な生活を末永く送るなり出来ていたはずだ。それなのに衝突を避けて長年我慢してきてしまったものだから、無駄に辛い時間を過ごすことになってしまった。

 

 夫だって、突然何十年分もの不満をぶちまけられても困るだろう。もはや「ごめん」の一言では済ませられない時間の重みがある。反省したとしてもどうしていいのか分からない。

 

 いい加減、日本人が美徳だと思っている耐えがたきを耐えてしまう習慣を改めるべきだろう。耐えに耐えた挙句、限界に達すると突如豹変して捨て台詞を吐いて出ていく、みたいな互いに生産性のかけらもないことをやったりもする。

 

 他に選択肢がないからだとか、我慢するための理由を一生懸命ひねり出すしょうもない努力をするのではなく、不満があれば言葉にし、その都度建設的に解決していくコミュニケーション能力を身につけていかなければならない。「我慢」か「キレて出ていく」かの2択では駄目だ。これはなにも夫婦関係に限った話ではなく、あらゆる場面で言えることだ。

 

 何度も家と町をつなぐ林道を歩く場面が登場するのが不思議だったが、エンドクレジットの演出を見ると小津映画や松竹映画的なものを意識していたのかもしれない。ただ、特に効果的だとは感じなかった。

 

 初恋の話などの各エピソードの描き方が物足りず、あまり深みはなかったが、ストレスなく見られる映画ではあった。

 

スタッフ/キャスト

監督 小林聖太郎

 

脚本    本調有香

 

原作 新装版 お父さん、チビがいなくなりました (フラワーコミックスα)

 

出演 倍賞千恵子/藤竜也/市川実日子/星由里子/小林且弥/吉川友/西田尚美

 

音楽 小六禮次郎

 

編集 宮島竜治

 

お父さん、チビがいなくなりました - Wikipedia

 

 

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